第9回:内田旭彦さん、森彩乃さん(クアイフ)
ロックバンド「クアイフ」、Finale未経験から2週間でオーケストラ共演用スコアを制作(後編)
クアイフ BIOGRAPHY
2012年3月、音大クラシックピアノ科出身で数々のピアノコンクール受賞歴のある森 彩乃を中心に結成。
2014年3月に1stフルアルバム「クアイフ」をリリース。2015年6月にリリースした 1stミニアルバム「organism」が第8回CDショップ大賞の東海ブロック賞を受賞。 2016年には2ndミニアルバム「Life is Wonderful」、1st EP「snow traveler」 (「週間USEN HITインディーズランキング」1位獲得)を立て続けにリリースし、 それぞれのリリースライブをSOLD OUTさせるなど躍進。
2017年4月の東名阪ツアーもSOLD OUTさせ注目度が急上昇する中、11月に「愛を教えてくれた君へ」でEPICレコードジャパンよりメジャーデビュー。同曲がZIP-FM 「ATEAM ZIP HOT 100」1位・「Z-POP COUNTDOWN 30」で2週連続1位を獲得、 「週間USEN HIT アニメランキング」1位・「週間USEN HIT J-POPランキング」で 5位にランクインするなど各種チャートを席捲、”泣ける神曲”としてロングヒット。 2018年3には、全国23局でパワープレイ・レコメンドを獲得した2ndシングル「ワタシフルデイズ」、6月にはメジャー1stアルバム「POP is YOURS」をリリース。
また、地元名古屋のJリーグクラブ名古屋グランパスのオフィシャルサポートソング を2016シーズンから担当し絶大な支持を得ている。
結成9年目、メジャーデビュー4年目で作曲経験は豊富だがFinaleは初めてという「クアイフ」のコンポーザー2人が2週間でFinaleをマスター、自らのオーケストレーションで40人規模のオーケストラ共演用スコアを制作するストーリーを2回にわたってご紹介。
前編に引き続き今回お届けする後編では、本番を経た感想と、Finaleを使いこなしたのちの楽譜に対する考え方の変化などについてお話を伺ってみました。
ー目次ー
1. オーケストラとの共演ライヴを終えて
1.1. 楽譜づくり
1.2. オーケストレーション上の工夫
1.3. レコーディングの機材やセッティング
2. プレイヤー目線から丁寧に書くというのが大事
3. 「共通言語」としての楽譜
4. ♬楽曲解説♬
1. オーケストラとの共演ライヴを終えて
1.1. 楽譜づくり
(森)ありがとうございます!おかげさまで収録は上手く行きましたが、実は終演後の慌ただしさの中で、あとで見て勉強しようと思っていたパート譜を、その場でお返しいただくのを忘れてしまって。。。
すぐに大学側にお願いして、一部はデータとして送っていただいたのですが、まだ全部のパート譜は回収できていないんです。
(森)私たちはボウイングを指定しなかったので、オーケストラ曲でもコンミスさんがボウイングを決めて全体に共有していました。
(森)演奏現場で使う楽譜はなるべくシンプルなものが良いと思っていたので、これをどこに追加すべきかは結構最後まで悩みましたね。
(内田)ガイド音符については、演奏現場ではステージ上のそれぞれの場所で周りの音の聴こえやすさが違うので、それぞれの演奏者にとって有効なガイドとなる音符は、ステージを見ていないオーケストレーターの認識とずれがあるかも知れないという気付きもありました。
なので、Finale上で書くガイド音符は必要最小限なものに留めておいて、あとはパート譜を使う本人に必要に応じて追記していただくのが良かったのかなと思ってます。
(内田)僕らがFinale上で書いたガイド音符にプラスして、それぞれの演奏者が「ドラム」「ヴォーカル」などと言ったように、楽器名を日本語でメモをしていたことも多かったようです。今回、僕らはFinale上でここまでの書き込みはしませんでしたが、分かり易さを重視するなら、こういった日本語の書き込みをするのも実践的なのだと思いました。
1.2. オーケストレーション上の工夫
(内田)このプロジェクトの全体コンセプトというか、映像も音響も含めて全てのセクションにおいて目指していたものが、「みんなが主役になれる」ということです。例えば低音が僕のベースしか聴こえないということにはしたくなかったのです。
なので、元のバンド曲をオーケストラ共演用にリアレンジするにあたり、ベースとバスドラムというバンド的な低音要素と、チューバやコントラバス、チェロというオーケストラ的な低音要素のバランスに気を配った結果、エレキベース以外に地を這うようなアナログシンセのベースを多用することにしたんです。
具体的には、バスドラムやアナログシンセの重心を下げてSuper Lowと言われる帯域がしっかり出る音色にして、その上にコンバスやチェロを配置するようにしました。
(内田)僕は音楽って低音が大事だと思うんです。だから今回は特にSuper Lowを丁寧に作って、低音も楽しんでもらえるようにしたかったんです。低音処理はバンドとオーケストラとの共演で注意すべきポイントの一つで、バスドラムやベースの重心を下げて、そこに作ったスペースにチェロやコントラバスを配置するのが一つのやり方だというのが、今回アレンジを進めた中での気付きでした。これはスマホのスピーカーではなくヘッドフォン、できれば低音がちゃんと再生されるスピーカーで聴いていただけると、その良さがより伝わるのではないかと思います。
(内田)オーケストラのトラディショナルな雰囲気も活かしつつも全体としては現代的なアレンジにしたかったので、アナログシンセは楽曲全体の質感を出すために必要と考えたんです。アナログシンセでは僕は目立つことをしてないですし、映像のカット数もおそらく少なく、たぶんサポート・ドラマーの深谷雄一さんの映像の方が多いくらいなんですけど、アナログシンセのトーンが楽曲全体に大きく影響しているのは感じ取ってもらえると思います。(編注:クアイフのドラマー三輪さんは体調不良で活動休止中)
1.3. レコーディングの機材やセッティング
(内田)今回は当日のPA/Mixエンジニアとして入って頂いた松井さん、中川さん(J'z studio)と、「どうしたらオーケストラの音をより良い形で届けられるのか」を入念に打ち合わせして、音を作っていきました。一部のマイクは大学のレコーディング・スタジオからお借りし、またピアノには僕が所有するコンデンサーマイクを立てたりしましたが、その他の機材は基本的に全て持ち込みです。
(内田)はい、レコーダーはメイン&サブともStudio Oneです。今回は回線の条件などもあり、実際にいくつのマイクを立てるか、そのチャンネル数などは収録日ギリギリにならないと決められない状況でした。その点、Studio Oneはチャンネル数に制限がないですし、収録日から、12月25日(金)の先行配信までタイトなスケジュールだったこともあり、エンジニアさんが使い慣れていてワークフローの速いStudio Oneを使われたようです。
(森)ホールの残響が大きかったため、特にオーケストラで後方に配置されたパーカッション奏者のプレイが遅れてしまう問題がリハーサルの段階で明らかになったのですが、これは私たちバンド3人と指揮者の他に、パーカッション奏者、それとコンミスさんにクリックを聴いてもらうことで解決しました。パーカッションの皆さんの対応力に拍手です。
(内田)本当は演奏者全員がクリックを聴ければベストだったのですが、機材の条件でそれが難しかったので、例えばブラスが重要な役割を担う「自由大飛行」ではトランペット奏者にもクリックを聴いてもらうなど、曲に応じた工夫もしました。
2. プレイヤー目線から丁寧に書くというのが大事
(内田)はい。共演者用に楽譜が必要だったときはLogicで作ってました。バンドのレコーディングでは音符が書かれた楽譜は全く使わず、コードシンボルと、エンジニアとやりとりするための小節番号だけが書かれた構成表だけで十分でした。
そもそも、レコーディング前の最後のリハーサルで「よし、アレンジはこれね!」と決定しても、レコーディングの本番でドラムのフィルや僕のベースラインが変化していくこともたくさんあるんですよ。その場でかっこいいと思ったものを採用していくスタイルなので、バンドだけの場合は楽譜は必要としなかったですね。
(内田)僕らは自分たちで作曲したから曲の構造を理解していて覚えているので楽譜がいらないのかも知れませんが、例えば変拍子が多い「organism」の場合、サポート・ドラマーの方が「覚えづらい!」という話になり、この曲についてはドラマーの方が自分で楽譜を書いてくれていました。
(内田)まだ楽譜制作の初期段階での話ですが、今回Finaleを使って初めて本格的につくったパート譜がどのような仕上がりになったかを確認したくて、以前共演していただいたプロのヴァイオリニストに見てもらったのです。
その方には「全く問題はないし、丁寧という印象。やりやすい感じがする」というコメントと共に、「プレイヤー目線から丁寧に書くというのが大事」と言われ、それが以降のパート譜づくりにおける大きな指針となりました。
(森)その方はクラシック出身だったと思うのですがポップスの仕事も多くこなしていて、実は以前に私たちと一緒にカルテットで弾いていただいた時にはLogicからエクスポートした、アーティキュレーションなども書いていない楽譜をお渡したんですけど、それを上手いこと演奏してくれました。
それをみて、たぶんポップスの現場経験が豊富な人はその分野での楽譜の解釈力を備えていて、「あ、このフレーズはこうして弾いて欲しいんだろうな」などと分かってくれるのだな、と思ったことを覚えています。
(内田)あとは、僕が以前からお世話になっている大先輩スキマスイッチ常田さんから、前々から常田さんが作成された譜面データを見せて頂いていたこともあって、今回のスコア作成は、それを参考に出来たということも、僕にとって非常に有難い要素でした。
3. 「共通言語」としての楽譜
(森)指揮者の上田仁先生とは今に至るまでずっとやりとりしているのですが、「Salvia」を先行配信したとき、「すごく感動した」とのコメントを頂けたのが嬉しかったです。
クラシックとロックではそれぞれ「日常」の音楽が違うと思いますが、今回のプロジェクトよって私たちは普段のバンド曲にオーケストラが加わることでこんなに広がりを持つんだということにすごく感動していますし、クラシックの人たちはオーケストラにロックバンドやそのヴォーカルが入ることでこんな面白いものができるんだということに感動して下さったと思うんです。
同じ感動だけどその角度が違うところは面白く、これはやってみないと感じられないことでした。楽譜を介して共演者のみなさんに私たちの音楽を伝え、それを一緒に演奏し、終了後もそのようなやりとりを続けている中で、今回のプロジェクトをやってつくづく良かったと思っています。
(内田)今はSNS然り、世の中が分断されていることが気になるんですけど、そういう中で音楽って、それを繋ぎ止めるための大事なものになるのではと思っています。
僕は今回のプロジェクトを通じて、「楽譜は手紙」だと考えるようになりました。楽譜は音楽を共演者にシェアする手段ですが、良い手紙と良い楽譜というのはたぶん同じで、例えば字は下手でも気持ちが伝わる手紙があるように、楽譜もただ綺麗に書くだけでなく、そこに共演者を想う気持ちや、一緒に創る音楽への情熱を感じられるかどうかが重要と思うんです。それは手書きの楽譜でもFinaleの楽譜でも同じですね。
2020年、2021年と、こういう世界だからこそ僕らも他のいろんなジャンルの人たちと繋がろうという姿勢を示していきたいと思っています。ロックバンドにはロックバンドの言語があるけど、別のジャンルには別の言語があり、それぞれが持つ音楽の気持ちや想いを伝えるための「共通言語」として楽譜があるんだと思います。
僕らのようなロックバンドだからこそ、他のジャンルと繋がりやすいと思っていますし、そのための手段として今後も楽譜の使い方を学び、自分たちの力にしていきたいと思っています。
クアイフ × 名古屋音楽大学オーケストラ Special Live『live my city Q』、YouTubeにて全編無料公開中
♬楽曲解説♬
内田さん、森さんに、今回のライヴの聴きどころを伺ってみました。宜しければ上のYouTubeライヴ映像と共にお楽しみください。
「愛を教えてくれた君へ」
(内田)いちおしポイントは、最後のサビで、歌の中で軽いブレイクがあり、そこに入れたティンパニ・ソロを聴いていただきたいですね。僕はティンパニが好きなので、ティンパニが目立つ場所を作りたいと思ってアレンジしました。
(森)他のオーケストラ曲は最初からいろんな楽器が入ってきますが、この曲はピアノから歌になり、暖かい音色の木管など、徐々に楽器が増え、ずっと長い坂道を登るようなアレンジになっています。私自身もステージで歌っていて、みんなが合流してきて次第に音が増えていく中で、曲と共に気持ちが高まっていくように感じました。そのあたりも皆さんに感じていただけると嬉しいです。
(内田)アレンジ面では、この曲は特に低音に気を遣いましたね。サポート・ドラムの深谷雄一さんのキックの音色もSuper Low(20〜30kHz)が出る音色になっていて、僕もこの曲はアナログシンセでかなり低い音をズドンと出してシリアスな世界観を演出してます。
「Salvia」
(内田)これはFinaleで書いたオーケストラ譜として最初の曲です。2番のサビが終わった後の間奏は2小節おきに半音で上下する転調が繰り返され、そのあとピアノソロに行くのですが、そのピアノソロも含めて、オーケストラ・アレンジになってもクアイフっぽいというか、ああいうことに快感を覚えます(笑)。
半音で上がったり下がったりする転調は普通は気持ち悪いかもしれないけど、そこを格好良く気持ち良く聴こえたら「やった!」と感じるポイントになります。この曲では、このあたりにそういう要素を全部入れている感じですね。意識もせずに格好良いものを求めると自然にそうなっていくという感じではありますが。
なお、僕はアナログシンセで重心が低い這うようなロングトーンのベースを弾いています。この曲を先行公開した後、友達のミュージシャンから連絡が来て、「すげー良いけど、お前一番目立ってなくね?」と言われたりしました。そう見えるかも知れないけど、トータルが格好良くなるなら良いと思います。僕はベースは好きですけど、弾かないことが一番良い結果になるなら弾かなくても良いや、と思うのです。
僕はロングトーンが一番格好良いならば、ロングトーンが良いと思っているんです。一つの音に集中した方が、そのクオリティは高くなりますし。音数が多いテクニカルなプレイも好きですが、それは必要ならそうするという感じです。
テクニカルなプレイについて付け加えると、僕は昔から今に至るまでプログレが好きですし、超絶技巧ベーシストBilly Sheehanを擁するMr.Bigなんかも好きだし、USインディーのマスロック、ポストロックの技巧派ギタープレイも好きで、ギタリストがいないクアイフではそういった要素をベース・プレイに取り入れたりしています。
「Meaning of me」
(森)アンサンブルの構成はバンド+コーラス隊です。
(内田)これは原曲をかなり変えました。ゴスペルっぽいアレンジにしたくて、それを意識した原曲にないメロディを追加しましたし、原曲はBPM163くらいの8ビートですが、これを80くらいに落としてリアレンジしました。コーラスラインのメロディが気に入っているので、そこを聴いていただきたいですね。
(森)コードもキーも変えて、さらに転調もいれたし、変えてないのはメロディと歌詞だけという大改造。内田が言ったようにコーラスラインのメロディが聴きどころです。コーラスは6人のうちクラシックの声楽科が4人、ミュージカル・コースが2人ということで、ゴスペルっぽい曲、ポップスっぽい歌い方というのが初めてだったそうです。コーラスのみんなと一緒に作っていけたのも楽しかったですね。
(内田)ゴスペルは歌い手それぞれの個性が活きやすいので、この曲では特に、皆さんの“声”に注目して頂ければと思っています。
「冬の花火」
(森)ドラムレスで、ピアノとベースとヴァイオリンのトリオ曲です。
曲は2020の夏に作り、リリースはもちろんライヴでも未発表の、完全なる新曲です。夏頃に「冬にやれたら」と思って作った曲なので、ここでやろう!と思って取り上げてみました。
(内田)この曲では、ヴァイオリンも多くのメロディを弾いているんです。自分の中でのアレンジの最大の楽しみは、歌ものだったら歌ではない第2旋律や第3旋律をどのように格好良く攻められるかという部分なのですが、このヴァイオリンのメロディは上手くいったと思いますので、これにも耳を傾けていただけると嬉しいですね。
(森)元のアレンジはドラムも入っていてストリングス・アレンジの曲で、サンプリングや電子音も入れていたけど、ドラムレスでやるのが素敵になるんじゃないかと思ってこうしてみたんです。元のアレンジといってもまだデモ状態なので、もしかしたら世間的には先行公開したこちらがオリジナル・アレンジ扱いになるかも。
「自由大飛行」
(森)この曲は原曲でも、イントロにシンセのブラスの音色を使っています。当初はこの曲を取り上げる予定はなかったのですが、今回の指揮者でトランペッターとしても活躍されている上田先生に「この曲、吹きたいです!」と言っていただいて、「そんなこと言われたらやるしかないでしょう!」と私たちもノリノリになって(笑)、取り上げることになりました。
他のオーケストラ曲はもちろん上田先生が指揮ですが、この曲は「僕は吹きたいので森さん指揮しましょう」という話になって、私が最初に振ってその後にピアノに移動してというスタイルになったんです。
私はオーケストラを指揮するのはこれが初めてでした。リハーサルの最初の頃は、私の指揮がブレてしまったりすると、みんなもそれについてきて“正確に”ブレてくれるのをみて、単純にそれで感動したりしてました(笑)。これはすごく重要な役割だなと思って、上田先生にコツを伺ったところ、それぞれのビートの落ち切った位置で太鼓のバチで叩くようにイメージすると良いと言われました。そうすると腕の動きは同じ速度でなく、ビート・ポイントを起点にしなる感じで加速して減速して、となりますが、それを意識したらやりやすくなりました。
(内田)指揮者はDAWでいうオートメーションと同じ役割を果たしているんだろうなと、演奏者の一人として思いましたね。その指揮者のニュアンスでダイナミクスやクレッシェンドの傾きも変わってくるだろうし。
そしてアレンジ的には、先程の低音の話でいうとこの曲ではオーケストラ曲として唯一、エレキベースを弾きましたので、エレキベースとコントラバスの低音の棲み分けにより注意を払いました。
(森)最初の低音パートはチューバだよね。そして一番のAメロはコントラバス、サビはエレキベースというように。
(内田)そう。だんだん盛り上がるところは輪郭がはっきりするエレキベースを使うというアレンジにしました。また面白い話としては、曲の終わり、バンドでは良く「ドカダン、ジャーン」みたいなのをやるじゃないですか。あれをオーケストラにやってもらったら凄いことになったっていう(笑)、爆発したような音になりました。で、その「ダーッ」を止めるのも指揮者である森の役割でした。
(森)私がジャンプして止めたんです!
(内田)ここは聴きどころでもあり見どころでもありますね。指揮棒を振るという以外にも、演奏が良ければどんな表現方法もありだと思いますし、そこも良かったよね(笑)。
どの曲も、現代的なバンド・サウンドとオーケストラを融合させるというのが基準の一つでした。この曲については、全体の空気感としてはブラスバンドっぽいアレンジの曲なので、エレキベースはBメロとサビのようにバンドっぽく盛り上がるところだけで用い、低音パートの多くはチューバやコントラバスに任せるようにしました。ちなみにこの曲はシンセベースも使っていないので、ベースも弾かずに休んでいたところもかなり多いです。
(森)その潔い「引き」ができるというのも大事だよね。
(内田)僕はベーシストだしベースは好きですけど、かといってどの曲にも必ずエレキベースを入れたいという強い欲望はないんです。編曲者としてトータルで格好良かったと言ってもらえるのが一番嬉しいので、そのためならば別の楽器を弾くのも、あるいは何もしないのも全然良いと思ってます。
「アイノウ」
(森)アンサンブルの構成はバンド+ホーンセクション(サックス、トランペット、トロンボーン、ホルン、チューバ)+コーラスです。
(内田)この曲のオリジナルはストリングスのアレンジなのですが、今回はホーンセクションを使ってより暖かい感じにしたいということで、このアレンジにしました。
(森)この曲は地元愛をテーマとしたもので、曲名の「アイノウ」は「愛知」と「I know」を掛けたものです。
私が生まれ育った愛知、そして音楽を学んだ名古屋音楽大学での舞台の締めくくりにこの曲を演奏したかったという想いがあり、この曲を今回のライヴの最後に演奏させていただきました。
曲の最後にはシング・アロングのセクションがあります。もしコロナ問題がなければその場にいた全員で大合唱したかった部分なのですが、今回はそれぞれの声と映像を撮らせて頂き、それを集めてエンディングに仕上げています。
【photo by エサキチサト】
《編集後記》
Finaleはもちろん楽譜を本格的に使うのも初めてというロックバンド「クアイフ」の内田さんと森さんが、Finaleを使い始めてから僅か2週間でこれをマスター、最初のオーケストラ共演用スコアを完成させ、2ヶ月後にはレコーディング・ライヴに至るという今回のストーリー、クラブフィナーレ編集部でも、その使いこなしの過程から多くを学びつつ、また一緒に創造の楽しみを垣間見させていただきつつの取材となりました。
COVID-19問題によるミュージシャンの活動環境の激変を一つの契機として始まったこのプロジェクトには、さまざまなドラマがありました。もしこの記事で初めてこのストーリーに触れられた方は、ぜひ前編もお読みの上、成果としてYouTubeに無料公開された配信ライヴをお楽しみください。
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5. 関連記事リンク集
《Finaleの基本操作を学べるリソース》
- 譜例で操作方法を検索:Finaleオンライン・ユーザーマニュアルより。Finaleで可能なこと、それを行うための操作法が一目で分かり、初心者の方には特にお勧めです。
- クイック・レッスン・ムービー:Finaleの操作方法や便利な機能などを30〜60秒程度の短い映像でご紹介しています。
《オーケストラ譜のための3つのテクニック》
- 大きな拍子記号を表示させる方法
- 大きな小節番号を配した専用の五線を表示させる方法(近日公開予定)
- 各パートの演奏スタート箇所を明示するガイド音符の設定方法(近日公開予定)
《オーケストラ・レコーディングの現場から》
- 内田旭彦さん、森彩乃さん(ロックバンド「クアイフ」) Finale未経験から2週間でオーケストラ共演用スコアを制作(前編:オーケストラ譜制作からリハーサルまで)
- 内田旭彦さん、森彩乃さん(ロックバンド「クアイフ」) Finale未経験から2週間でオーケストラ共演用スコアを制作(後編:オーケストラとの共演ライヴを終えて)
- Shota Nakama氏:作編曲家/オーケストレーター/プロデューサー/ギタリスト 楽譜作成ソフトウェアの編集機能を活かし、オーケストラ・レコーディング用の大量の楽譜を読み易く、超高速で制作
《オーケストラ・スコア制作に役立つTIPS記事》
- TIPS 2. 同じ発想記号を複数のパートに連続複製する方法
- TIPS 3. 入力済みの記号やアーティキュレーションを瞬時に変更する方法
- TIPS 5. 入力済みの音の高さを簡単に変更する方法
- TIPS 6. 記号類だけを他のパートにコピーする方法
- TIPS 8. プレイバック時の臨場感を簡単に調整する方法
- TIPS 10. プレイバック時に、連続する16分音符をシャッフルさせる方法
- TIPS 11. 曲の途中で楽器を変更(持ち替え楽器)する方法
- TIPS 12. 部分的にプレイバックをしてサウンドをチェックする方法
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- TIPS 15. 組段セパレータでスコアをより見やすく
《吹奏楽アレンジのためのFinale活用術》
- Vol.1 大会に向けての準備を時短・効率化:編曲や楽曲のカット、パート譜の編集、演奏時間の管理など、吹奏楽ならではの作業におけるFinaleの活用術をご紹介。
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《楽器別Finale活用術》
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.1:ギター編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.2:ピアノ編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.3:管楽器編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.4:打楽器編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.5:弦楽器編
《プロのFinale活用事例:アーティスト別》
- 都倉 俊一氏:作曲家/編曲家/プロデューサー “現場ではすぐにスコアを書き換えなくてはいけないことがある。するとパート譜の修正もたくさん必要になりますよね。その作業が、Finaleのおかげでとっても楽になったことが印象的でした”
- 外山 和彦氏:作編曲家 “手書き時代はスコアを切り貼りしたり苦労をしたものですが、Finaleを使うことで圧倒的に便利になりましたね。仕事場にはもう五線紙がありませんよ”
- 吉松 隆氏:作曲家 “我々プロの作曲家にとっては、こと細かい調整ができるという面で、やっぱりFinaleなんですよね。Finaleは、車に例えるとマニュアル車みたいなものなんです”
- 佐久間 あすか氏:ピアニスト/作曲家/音楽教育家 “Finaleは楽譜のルールを学習するためのツールにもなっているんだなと思います。楽譜が分かるようになれば、読む時の意識も変わります”
- 栗山 和樹氏:作編曲家/国立音楽大学教授 “Finaleを使えば「バージョン2」を簡単に作れることは大きなメリットですね。特に作曲面でトライ&エラーを繰り返すような実験授業では、Finaleでデータ化されている素材は必須です”
- 櫻井 哲夫氏:ベーシスト/作曲家/プロデューサー/音楽教育家 “Finaleの普及で、演奏現場では以前は当然だった殴り書きのような譜面はほとんど見られなくなり、「これ何の音?」などと余計な時間も取られず、譜面に対するストレスがかなり減りました”
- 紗理氏:ジャズ・シンガー “ヴォーカルだと特に、同じ曲でもその日の気分やライブの演出によって、キーを変えたい時がよくあるんです。そんな時でもクリックひとつで移調できるわけですから、これはものすごく便利です”
- 赤塚 謙一氏:ジャズ・トランペット奏者/作編曲家 “作る人によってレイアウト、線の太さ、フォントの選び方など好みがあり、手書きのように作った人の「らしさ」が表れます。この辺がFinaleに残されたアナログな良さかも知れません”
- 本田 雅人氏:プロデューサー/作曲家/サックス奏者 “手書きでは本当に大変でしたけど、Finaleに慣れてきてからは随分と楽になって作業の効率は圧倒的に良くなりましたね。ビッグバンドとか吹奏楽とか、編成の大きな場合にはすごく助かります”
- 内田旭彦氏、森彩乃氏(ロックバンド「クアイフ」) “二週間でFinaleを習得できた理由には、制作中に直面した問題の解決過程でFinaleの様々な機能に触れることになったというのがある気がします”