第1回:外山 和彦さん
Finaleを使うようになったら家から五線紙が消えました。

外山 和彦(とやま・かずひこ)プロフィール
1955年東京生まれ。国際基督教大学在学中に音楽プロデューサー、ジョニー野村氏に認められ、氏のアシスタントとしてゴダイゴをはじめとする数多くのアーティストの音楽制作に参加。その後1984年渡米しバークリー音楽大学にて編曲を専攻。87年同学を首席で卒業後、ニューヨーク、ロサンジェルスなどで研鑽を積む。帰国後は作編曲家として活動中。CM、TV、ゲーム音楽など数多の楽曲を世に送り出す傍ら、タケカワユキヒデ、早見優、等数多くのアーティストのプロデュースも手がける。現在は作曲家安田信二氏率いる「魅惑の音楽団」のキーメンバーとして幅広いジャンルの演奏家、レコーディングエンジニア、映画カメラ・オペレータらと共に新感覚のアコースティック・ポップ・ミュージックの可能性を模索している。
日本作編曲家協会常任理事。JASRAC編曲審査委員。
僕がアメリカの大学を卒業した1986年くらいは、ちょうどMIDIをベースとした音楽作りが広まってきて、Macintoshが使われ出した頃で、音楽制作そのものがまさに変革期のただ中にあった時代でした。僕も当初はヤマハのQXシリーズを使っていたのですが、回りがMacに移行していったので必然的にそちらに移っていった感じですね。80年代終わりですから、もう25年も前のことです。 その当時から、楽譜を書くということに関しては特にこだわりのようなものがあって、楽譜作成ソフトと名のつくものは色々試してみましたが、機能が豊富で、自分の思い通りの記譜を再現できるソフトはこれしかなかい!ということで最終的にFinaleに行き着きました。マスターするのはちょっと大変だったけどね(笑)。

いやそうではなく、当時はどちらかというとシーケンサー中心の音楽作りをしていて、90年代終わり頃に、たまたまオーケストラの作品を書くことが多くなってね、それで本格的にFinaleにのめりこむことになりました。そこからFinaleは僕にとって無くてはならない、メイン・ツールになっていたんです。
当時は、スタジオでは手書きの写譜が主流で、Finaleで綺麗にプリントされた楽譜を渡すだけで感動されたりしたものだけど、僕は自分の作った楽譜に責任を持ちたかったんです。スタジオ現場でよくあるタイムロスの原因が楽譜の表記ミスによるものだったりするんですけど、それは写譜屋さんのミスというよりは、時間に追われて読みずらいスコアしか提供できなかった僕らの側にあるのであって、僕はそういうところは“ちゃんと”したかった。
レコーディングの現場では、音出しした後に「やっぱりここに8小節足して!」みたいなオーダーがよくあるわけですが、手書きの時代はスコアを切り貼りしたり、もうぐちゃぐちゃになって大変な苦労をしたものです。特にメドレーなんかの場合だと前後のキーや脈略も全部検討し直さなければならないわけですから、このあたりはFinaleを使うことで圧倒的に便利になりましたね。Finaleを使うようになって長いですが、仕事場にはもう五線紙がありませんよ。

そう、作曲のスタイルも変わるんですよ。どういうことかというと、読譜力って程度の差こそあれ限界があると思うんですね。スコアをピアノで再現しようとも10本の指では足りないようなこともあって。もちろん、頭の中のイメージを楽譜に落としていくわけだから、頭の中ではオケが鳴っているわけだけど、それでも改めてプレイバックして音を確認できるというのは有り難いものです。聴いてみると「あ、そうか」って思えることもあって新しいアイデアが浮かんできたり。ただね、本当に笑えない話があって…。学校で作曲を教えているのだけど、学生に「ここをこうしたらもっと良かったんじゃない?」とアドバイスしたところ「操作方法がわからなくて諦めました」って。これは本当に恐ろしいですよね。コンピューターに支配されちゃってるんですよ、作曲スタイルが。こうなっては本末転倒もいいところで、そのためにも正しく操作方法を学ぶ必要がありますよね。
ファイナルプロダクションとしてFinaleだけで完結させるにはまだまだだけど、「こういう線でいきましょう」とか生録音の前の確認程度だったら十分のレベルにまで来ています。例えばゲームの音楽なんかだと「ハリウッド映画みたいなフルオーケストラで」なんていうオーダーがよくあるんだけど、デモを提出するにあたってシーケンスソフトで作り込むわけですが、自分の性分からどうもこだわっちゃうんですよ。かつてはデモ作りだけでも膨大な時間がとられていたので、最近のプレイバック機能の充実ぶりには助かってますね。
いろんな音源を持っていますが、特にGarritanのJazzのシリーズは重宝しています。CMなんかでは「ビッグバンド風な曲」というオーダーを頂くことも多いのだけど、特に僕がこだわっているのは金管楽器のミュートの音ですね。ストレート、カップ、プランジャー、いろんなミュートがあるけれど、作曲する側としてはこれらの音をきちんと使い分けてますからね。レコーディング前提のデモ作りでも、GOサインを出すクライアントにそのアレンジの面白さを伝えるためには、本物に近い音で提出したい。言葉で「この部分はカップ・ミュート着けますから」って説明してもなかなかイメージとして伝わりにくいですからね。

良い意味でクセがないってことでしょうか。指標になるので初心者の方には一番いい音源セットだと思います。製品版のラインナップもいくつか出ていますから、必要に応じて追加できるのもいいですよね。これで音作りに慣れていって、個性や好みを発揮したいと思うようになったら他の音源に手を出してみる、っていうのが良いんじゃないでしょうかね。
これはずいぶん前から思っているのだけど、MIDIの編集機能がもっと簡単にできるようになるといいですね。せめて音の立ち上がりだけでも調整できれば、シーケンスソフトのお世話になる機会がぐっと減るだろうね。
Finaleは確かにマスターするまでに時間がかかるかも知れませんが、ちょっとした工夫の積み重ねで、マニュアルに書いてあることを超えた表現をすることも可能なんです。マニュアル通りにやってできないと嘆く前に、色々と試してみることが大事です。それを補う手法を探すのも醍醐味の一つだし、ソフトウェアに精通するというのはそういうことなんじゃないかな。
関連記事リンク集
《プロのFinale活用事例:アーティスト別》
- 都倉 俊一氏:作曲家/編曲家/プロデューサー “現場ではすぐにスコアを書き換えなくてはいけないことがある。するとパート譜の修正もたくさん必要になりますよね。その作業が、Finaleのおかげでとっても楽になったことが印象的でした”
- 外山 和彦氏:作編曲家 “手書き時代はスコアを切り貼りしたり苦労をしたものですが、Finaleを使うことで圧倒的に便利になりましたね。仕事場にはもう五線紙がありませんよ”
- 吉松 隆氏:作曲家 “我々プロの作曲家にとっては、こと細かい調整ができるという面で、やっぱりFinaleなんですよね。Finaleは、車に例えるとマニュアル車みたいなものなんです”
- 佐久間 あすか氏:ピアニスト/作曲家/音楽教育家 “Finaleは楽譜のルールを学習するためのツールにもなっているんだなと思います。楽譜が分かるようになれば、読む時の意識も変わります”
- 栗山 和樹氏:作編曲家/国立音楽大学教授 “Finaleを使えば「バージョン2」を簡単に作れることは大きなメリットですね。特に作曲面でトライ&エラーを繰り返すような実験授業では、Finaleでデータ化されている素材は必須です”
- 櫻井 哲夫氏:ベーシスト/作曲家/プロデューサー/音楽教育家 “Finaleの普及で、演奏現場では以前は当然だった殴り書きのような譜面はほとんど見られなくなり、「これ何の音?」などと余計な時間も取られず、譜面に対するストレスがかなり減りました”
- 紗理氏:ジャズ・シンガー “ヴォーカルだと特に、同じ曲でもその日の気分やライブの演出によって、キーを変えたい時がよくあるんです。そんな時でもクリックひとつで移調できるわけですから、これはものすごく便利です”
- 赤塚 謙一氏:ジャズ・トランペット奏者、作編曲家 “作る人によってレイアウト、線の太さ、フォントの選び方など好みがあり、手書きのように作った人の「らしさ」が表れます。この辺がFinaleに残されたアナログな良さかも知れません”
- 本田 雅人氏:プロデューサー/作曲家/サックス奏者 “手書きでは本当に大変でしたけど、Finaleに慣れてきてからは随分と楽になって作業の効率は圧倒的に良くなりましたね。ビッグバンドとか吹奏楽とか、編成の大きな場合にはすごく助かります”
《プロのFinale活用事例:テーマ別》
- 『アナ雪』主題歌Let It Goのグローバルな音楽制作を影で支えたFinale 主題歌Let It Goの完成テイクをFinaleで採譜後、世界中のスタジオに配布し、25種類の言語で翻訳しボーカル録音したエピソードをご紹介
- Finaleで育った18歳の天才作曲家 ミネソタ州音楽教育協会作曲コンテストで5回連続優勝、シューベルト・クラブが主催するメンターシップ研修生に3度選ばれた高校生作曲家にインタビュー
- 『アナ雪』のオーケストレーションを担当したTim Davies氏のスーパーFinale術 iPadでプログラムしたコントローラーも駆使してあらゆる操作をショートカットとして登録し、手間を削減。Finaleでみるみるうちにオーケストレションが完成していく様子を捉えている動画をご紹介
《楽譜作成ソフトウェアの導入メリットを考える》
- 濱瀬 元彦氏:ベーシスト/音楽理論家/音楽教育家 Finaleでビ・バップのフレーズをデータベース化し研究に利用、成果を取りまとめ「チャーリー・パーカーの技法」を上梓
- Shota Nakama氏:作編曲家/オーケストレーター/プロデューサー/ギタリスト 楽譜作成ソフトウェアの編集機能を活かし、オーケストラ・レコーディング用の大量の楽譜を読み易く、超高速で制作
- ジョナサン・ファイスト氏:バークリー音楽大学教官 1学期12回にわたりFinaleを用いた記譜法を学べるオンライン・コースを開講している米国ボストンの名門、バークリー音楽大学(Berklee College of Music)での事例から、楽譜作成ソフトウェアを音楽教育に導入するメリットを考える
《Finaleの基本操作を学べるリソース》
- 譜例で操作方法を検索:Finaleオンライン・ユーザーマニュアルより。Finaleで可能なこと、それを行うための操作法が一目で分かり、初心者の方には特にお勧めです。
- クイック・レッスン・ムービー:Finaleの操作方法や便利な機能などを30〜60秒程度の短い映像でご紹介しています。