連載「DTMのはなし」
コンピューターでの音楽制作が一般的になって久しく、音楽ソフトは進化し複合的機能を備えつつあります。 Finaleにも実に様々な機能がありますが、便利である一方で、専門的な機能や用語に困らされることも・・・。 なんとなく敬遠しがちな細かい設定や聞き慣れないメニューも、DTMの話として大きな視野でアプローチしてみれば、より深くFinaleを理解する助けになることでしょう!
Vol.2:さらに奥深くへ
前回は「MIDI関連の用語」や「128」といったDTM用語に注目しました。こういった用語や設定数値はMIDI規格が関係しているのですが、そもそもなぜMIDI規格の話がでてくるのかを今回は確認していきましょう。
そのためにはFinaleが扱っているデータは何なのか、という点に注目する必要があります。
ー目次ー
1. Finaleの生データ(フレーム編集)
2. MIDIの詳細
3. 「8ビット」とは?
4. 「128」の謎?
5. なぜ16チャンネルなのか?
6. 16チャンネル使い切ったら?
7. 音源の扱いや設定はもうややこしくない
8. 難解な仕組みの先に的確な設定が見えてくる
9. 関連記事リンク集
1. Finaleの生データ(フレーム編集)

WindowsやMacのOSの基本操作は、グラフィカルな画面上でのマウス操作やスクリーンをタッチするGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)であり、複雑なプログラムや数値的なデータを感じることなく操作することができます。
FinaleにもGUIが用意されており、画面に表示されたウィンドウやマウスカーソル、メニューなどを操作して、楽譜をつくることができます。

Finaleの根本的な動作は「五線上のどこに何の音符を配置するか」などの“表示に関するデータ”を扱い楽譜を描画することです。 普段の作業ではまったく見ることはありませんが、フレーム編集画面ではこのFinaleのコアな生データ(プログラム内部の様々なコード情報)を見ることができます。
(※フレーム編集は高速ステップツールで、小節を選んでいない状態にしておき、対象小節をCtrl+クリックすると表示されます。)
このように、音楽の録音や再生・編集を目的としたソフトとは、そもそも扱うデータの種類が違うわけであり、根本が表示に関するデータであるからこそ柔軟な楽譜制作がおこなえるといえるでしょう。
そしてここからが本題になりますが、表示用の情報であるFinaleの生データは、それだけではコンピューターに楽譜を演奏させる命令をもちません。 そこで、プレイバックに必要な情報は、生データから演奏用データに変換(関連づけ)されて演奏情報として処理されるのです。
その演奏(プレイバック)用のデータが、MIDI規格に沿ったMIDIデータである、というわけです。
2. MIDIの詳細
楽譜データとプレイバック関連の項目が、MIDIと結びついていることもわかったところで、MIDIの仕組みをもう少し見てみましょう。
128段階の数値の謎とMIDIのシステムが16chごとである理由について迫っていきます。
MIDIを略さずに記すとMusical Instrument Digital Interfaceであり、電子楽器をお互いに繋いで情報(MIDIメッセージ)のやり取りをする際の決まり事(通信規格)のことです。
MIDIメッセージは、1バイト(8ビット)のデジタル信号で構成されています。
3. 「8ビット」とは?
MIDIは8ビットで処理されています。0か1しかないデジタル信号を8個(=8桁)で1まとめにして様々な命令をするので、例えば以下のような組み合わせが考えられます。
00000000
00000001
00000010
00000011
・
・(中略)
・
11111100
11111101
11111110
11111111
1桁あたり0か1しかない8桁の数値の組み合わせは256種類あります。
[ 2の8乗=256 ]
この8個の信号1まとまりで1ビットとなります。まずはこの仕組みをよく理解しておいてください。
4. 「128」の謎?

128段階の設定や16チャンネルの設定は、MIDIが8ビットであることと関係しています。 MIDIメッセージにはデータバイトとステータスバイトの2種類があり、それぞれ8ビットで表されます。
8ビット中の先頭は、データバイトかステータスバイトかの区別のために使われます。「0」ならデータバイト、「1」ならステータスバイトとなります。
数値はデータバイトで表します。先頭の「0」以外の、残りの7ビットで数値を指定することになります。
デジタルデータで使えるのは一桁ごとに0と1の2つの数字だけなので、7ビット(7桁)で表現できる数値は…
2の7乗=128通り
プレイバック関連の項目で見られる128段階の設定プレイバック関連の項目で見られる128段階の設定 つまり、0から127の128段階を指定することができます。

前回紹介したパン、分割ポイント、ノートナンバー、1バンクあたりの音色数、などが128段階で設定されるのは、このように8ビットの仕組みで表せる数値が0から127だからなのです。
5. なぜ16チャンネルなのか?

ステータスバイトでは、先頭から4ビットでMIDIメッセージの種類(ノートオン、コントロールチェンジ、ピッチベンドなど)を表し、残りの下位4ビットでどのチャンネルへ送信するかを表します。*1
(*1ステータスバイトの内のシステムメッセージでは、チャンネル指定はしませんが、わかりやすく説明するためここでは言及していません。)
4ビット(4桁)で表現できる数値は…
2の4乗=16通り
つまり、MIDI音源などの設定が16チャンネルなのは、チャンネル指定に使える下位4ビットで表現できるのが16通りだからです。

この表は、4ビットをフルに使用したら16通りあることを示したものです。
この16チャンネルで1つのMIDIシステムとなります。
6. 16チャンネル使い切ったら?

16までしか指定できないので、17チャンネル目からは2つめのシステムになります。これがMIDI音源を扱う際によく出てくる「バンクを切り替える」という操作です。
1システムごとに16チャンネルなので、2つ目のバンクは17〜32チャンネルということになります。3つめは33〜48、4つめは49〜64と続きます。
これは、MIDI/AudioメニューからAudio Units(VST)バンク/エフェクトを呼び出してみると仕組みがよくわかります。
7. 音源の扱いや設定はもうややこしくない

バンクやチャンネルを理解しておくと、プレイバックで迷うこともなくなり、トラブルの対処にも役立つでしょう。なぜか出てしまう警告メッセージに悩まされることもなくなります。
<Humman Playback再生時のメッセージの意味> プレイバックの時になぜか出てしまうチャンネルが重複している旨の警告メッセージ。これは、複数の五線で同じチャンネルを共有しているときに出ますが、深く考えずに「OK」を押していないでしょうか。

この設定での分かりやすい問題点は、スコア・マネージャーで1つの五線しか音色を変更したくないのに、つられて音色が変わってしまうような例です。
例えばこの図では、すべての五線が1chでバンクも同じなので、1つの五線への音色変更の操作のつもりが、同じチャンネルを割り当てた全ての五線に対して音色変更のメッセージが送られ、意図しないパートまで音色が変更されてしまいます。
この問題は、それぞれに独立したチャンネル数を直接入力することで回避できます。

ARIA Playerやサードパーティー製のVST/AU音源を使っているなら、チャンネルやバンクの考え方は重要です。
例えば、CC11のエクスプレッションで音量調整をおこなえるARIA Playerでは、音を伸ばしているときも音量を調整できるので、弦楽器や管楽器など持続音系の楽器において、細かい音量表現が可能です。*2 (*2.エクスプレッションでの制御に対応していない音色もあります。)
CCなど使ってないと思う場合も、Humman Playbackにより自動でCCなどMIDIメッセージが駆使されていることもありますので、やはり注意が必要です。
上の図を見るとコントローラーの18番や15番で、フラッタータンギングやフォールオフ、しゃくり上げなどの特殊な演奏方法を制御しているのを確認できます。
こういったデータを使う時に、1st.トランペットから3rd.トランペットまでまったく同じ動きをするのであれば、3つの五線が同じチャンネルでも問題はありませんが、パートごとに違う操作を求めるなら、チャンネルは分けておくべきでしょう。

SmartMusicSynthを使っている場合も、同様の注意が必要です。
弦楽器用のarco.とPizz.の発想記号は、音色切り換えのMIDIメッセージにより実際に音色がストリングスからピチカートへ変更されます。
これも、複数の五線で同じチャンネルを使っていると、予期せず音色が変更されてしまうかもしれません。

また、SmartMusicSynthといえば、ドラム用のチャンネルは10chと決められています。それぞれのバンクごとに10番目のチャンネルがドラム用になっているので、他のバンクでも10番目のチャンネルがドラム用です。
こういった事情でドラムチャンネルは、ここに示す表のようになっています。

他にもあります。ピアノ特有のサスティーンペダルはCC64番で制御されます。
大譜表で上下段に分かれていますが、チャンネルも分けてしまうと、ペダル記号がついている方だけサスティーンが効くなど、実際にはありえない設定になってしまいます。

もっとも、セットアップウィザードで作成したピアノの大譜表はこれらを適した設定にしてくれるので、通常は心配することはないでしょう。
8. 難解な仕組みの先に的確な設定が見えてくる
今回は少々ディープに、Finaleの生データやMIDIデータの本質に迫ってみました。難解な部分もあったかと思いますが、本質を知ることで設定項目の意義や的確な設定も見えてきたでしょうか。
設定の自由度が高まるのと相反して設定が複雑化し、思わぬ挙動をし始めると手に負えない!といったことも、仕組みを知ってしまえば恐れることもないでしょう。
それどころか、スコア・マネージャーやセットアップウィザードにおいては、面倒な処理や設定を実に的確に代行してくれていることがわかります。
面倒だなぁ難しいなぁから、便利だなぁーと思うようになったら、それはまた一歩Finaleへの理解が深まった証拠かもしれません。
次回は「Vol.3:DTMの目的とFinaleの役割」
お楽しみに!
<連載著者:近藤隆史>
文教大学 情報学部、東京音楽大学 音楽教育専攻で非常勤講師をつとめる。東京音楽大学でトロンボーンを学び、多数の音楽ソフトウェアやハードウェアの企画・開発・サポートといった音楽制作関連の業務に携わる。演奏や制作の音楽活動を継続しつつFinaleほか音楽ソフトの解説本執筆もおこなっている。
9. 関連記事リンク集
《連載「電子楽譜のはなし」》
- Vol.1:最近よく耳にする“電子楽譜”ってなに?
- Vol.2:“電子楽譜”のメリットとは? 紙の楽譜は無くなっちゃうの?
- Vol.3:電子楽譜最新事情
- Vol.4:Finaleを制するものは電子楽譜を制す!?(最終回)
《連載「楽譜浄書のはなし」》
《連載「DTMのはなし」》
《楽譜作成ソフトウェアの導入メリットを考える》
- 濱瀬 元彦氏:ベーシスト/音楽理論家/音楽教育家 Finaleでビ・バップのフレーズをデータベース化し研究に利用、成果を取りまとめ「チャーリー・パーカーの技法」を上梓
- Shota Nakama氏:作編曲家/オーケストレーター/プロデューサー/ギタリスト 楽譜作成ソフトウェアの編集機能を活かし、オーケストラ・レコーディング用の大量の楽譜を読み易く、超高速で制作
- ジョナサン・ファイスト氏:バークリー音楽大学教官 1学期12回にわたりFinaleを用いた記譜法を学べるオンライン・コースを開講している米国ボストンの名門、バークリー音楽大学(Berklee College of Music)での事例から、楽譜作成ソフトウェアを音楽教育に導入するメリットを考える
《Finaleの基本操作を学べるリソース》
- 譜例で操作方法を検索:Finaleオンライン・ユーザーマニュアルより。Finaleで可能なこと、それを行うための操作法が一目で分かり、初心者の方には特にお勧めです。
- クイック・レッスン・ムービー:Finaleの操作方法や便利な機能などを30〜60秒程度の短い映像でご紹介しています。