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「知る」— 楽譜作成ソフトウェアの導入メリットを考える

『Berklee Contemporary Music Notation』著者、バークリー音楽大学教官
ジョナサン・ファイスト氏

バークリー音楽大学
「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」クラスの現場から

楽譜作成ソフトウェアは、作曲家、アレンジャーを中心として、プロ音楽家にとって不可欠な音楽制作ツールの一つとなっています。では、プロ音楽家は楽譜作成ソフトウェアをどのように学んでいるのでしょうか。本記事では、1学期12回にわたりFinaleを用いた記譜法を学べるオンライン・コースを開講している米国ボストンの名門、バークリー音楽大学(Berklee College of Music)での事例から、楽譜作成ソフトウェアを音楽教育に導入するメリットを考えてみます。

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ジョナサン・ファイスト氏

今回インタビューしたジョナサン・ファイスト氏(Jonathan Feist)は、バークリー音楽大学の出版部局であるバークリー出版(Berklee Press)の編集主任を長年務め、また2002年には同大のオンライン・スクール『Berklee Online』を立案、「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」を始めとした幾つかのコースを開講し、自らもその教官を務めています。2017年末にはバークリー音楽大学における記譜の教育研究を取りまとめた単著『Berklee Contemporary Music Notation』を上梓しました。


楽譜作成ソフトウェアは変更の手間への恐れを払拭し、作曲活動を進歩させた

ー楽譜作成ソフトウェアとの出会いについて教えて下さい

楽譜作成ソフトウェアと出会ったのは1980年代の後半です。当時はニューイングランド音楽院で作曲を学んでいましたが、開設されて間もなかったコンピューター室にFinaleのβ版がインストールされていました。Finaleには一目惚れしましたね。当時、例えばスラーなどは雲形定規を使って描くのが常でしたが、三角定規で直線を引くのも好きではなかった私としては、綺麗な楽譜を書くことは自分の創造的なアイデアとそれを演奏し形にすることの間にある障壁だったのです。

楽譜の手書きは苦手でしたが、タイピングは非常に得意だったので、この新しい音楽専用ワープロは自分のアイデアとそれをプレイヤーに伝えることの間のギャップを埋めてくれると感じました。

ーFinaleの導入で、どのようなメリットがありましたか?

何よりも素晴らしいのは、作曲中に考えを変えるのが簡単なことです。手書きだと曲中に数小節を挿入するのは非常に大変な作業でしたが、Finaleを使えば簡単です。変更の手間を恐れず大胆に作曲に取り組めるようになった点で、Finaleは作曲活動を進歩させたと言えるでしょう。

Finaleを使えば楽譜を速く楽に作ることができます。例えば、パート譜をつくる何週間にもわたる作業は数時間あるいはそれ以下に短縮されます。マウスボタンで何回かクリックするだけで音符の変更や移調が簡単にでき、また歌詞も容易に変えることができますし、完成した楽譜は電子メールでの送受信やデータとしての保存・整理に対応し、さらにボタン一発でプレイバックもできるなど、手書きの楽譜では不可能な多くことが可能となります。

Finaleは音楽を教えてくれる

ー音楽教育にFinaleを導入することのメリット、特に学生がその操作法を学ぶことの重要性は?

Finaleは音楽教育には特に有効なツールです。Finaleには楽譜の正確な作成を助ける無数の機能が搭載されているため、これを使えば学生であれ教師であれ、それほど楽譜制作に慣れていない人も標準的な記譜法に従った読み易い楽譜を作ることができます。つまりFinaleは、それ自体が音楽を学ぶツールと言えます。Finaleがあなたに音楽を教えてくれるのです。

例えば、Finaleでは調号の入力時にシャープやフラットが正しい位置と順序で正確に表示されますし、1小節内に含まれるべき拍数も明示されます。Finaleには多くの実用的なアーティキュレーションや発想記号のライブラリを持ち、それらを標準的な記譜法に従って楽譜上に配置する機能があります。プレイバックは入力内容を即座に聴いて確認でき、自分が書いた楽譜とその結果として作られる音楽との関係を感覚的に理解するのに役立ちます。

ー音楽教師はFinaleを使うことでどのようなメリットを得られるでしょう?

オンライン・コース「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」のチャット画面Finaleは学生向け教材を自作する音楽教師のためのテンプレートやツールを搭載し、また教師が教材の難易度を調節したいと思った場合、それを助けるための数多くの機能があります。例えばスケール練習の教材を作る時、同じスケールを最初は全音符で書き、次に二分音符、四分音符、八分音符で書くことがあると思いますが、Finaleでは任意のフレーズの音価(音の長さ)を一括変更する機能がありますので、そのフレーズを新しい小節にコピー&ペーストした後に何回かのマウス操作でそれを実現できます。さらに拍子の変更や、別のキーへの移調といった様々な編集も簡単にできます。

こうした機能を活用すれば手書きよりも多くの教材をより早く制作できますので、教師はより柔軟かつ創造的に教材を準備できますし、結果として作られる楽譜はプロ仕様で、従って読み易いものとなります。つまり、学生は楽譜を読み解くことではなく、音楽そのものに集中できるようになります。

Finaleの学習は、音楽家に不可欠な手書き技術の向上にも役立つ

ー手元にコンピューターが無く手書きで楽譜を書くことも多くあると思いますが、楽譜作成ソフトウェアの習得は手書き技術の向上にも役立つでしょうか?

役立つと思います。先に述べたようにFinaleは一般的な記譜法に従い楽譜を作成するので、その作業を通じて楽譜の書き方そのものを学ぶことができますが、その際、例えば4/4拍子をCと書くといったように妥当な代替案が複数ある場合でも、Finaleは概ね最良の選択をしてくれます。それは手書きを学ぶ際にも大いに参考となるでしょう。

ただし、手書きで楽譜を書く技術はFinaleを用いた記譜の技術とは異なるものです。例えば符尾を1オクターブ分の長さで描いたり、加線を符頭の中心に描くといったFinaleでは当たり前にできることは、手書きでは意識して行わなければならず、それはそれなりの練習が必要となります。これはワープロの習得と手書き文章の作成との関係に似ています。

作曲にあたり、楽譜作成ソフトウェアと手書きとの使い分けはありますか?

手書きは、楽譜作成ソフトウェアでのタイピングがもたらさないような、楽譜を書くことに対するある種の意識的な繋がりをもたらすと思います。手書きで楽譜を書く技術は全ての音楽家にとって重要で、これは別途学ぶべきものです。

個人的には手書き楽譜の親密性や個性は好きです。そう、たまにはコンピューター漬けの生活から逃れ、山登りをしたり、海岸に出かけたりしながら、電子メールやパソコンがなく、冷却ファンのノイズに耳を煩わされることもなしに、純粋に創造的な仕事に打ち込みたいと思うことはありませんか?

そんな時に私は、例えばそれが作曲の場合は、Finaleで作成してプリントアウトしたブランク五線紙と鉛筆だけを持ってアコースティック・ピアノに向かい、最初のアイデアをドラフトします。自分のオフィスや普段使うコンピューターからは遠く、遠く、離れた場所でです。出来た楽譜は見栄えは良くないかも知れませんが、でも、それは私自身が創り出した愛しい作品です。私にとって手書きでの作曲は、日常からの逃避、あるいは余暇活動に近いとも言えます。

しかしながら、この最初の創造的なフェーズが終わると、Finaleが作業時間短縮に向けて無数の実用的なメリットをもたらしてくれます。Finaleに切り替えた後の制作プロセスはとても楽になり、その後は手書きに戻ることはありません。

作曲を極めたプロの中には、手書きの楽譜にはある種の魂が宿るという人もいますね

作曲家の中には手書きの美しさを長年追求している人もいますし、その技術は賞賛に値します。これまでに彩飾された中世の楽譜が展示されたヨーロッパの教会や修道院を訪れる機会が何度かありましたが、それらは本当に息を呑むような美しい楽譜でした。このような手書き記譜の技に心血を注いで来た最高の浄書家たちの仕事には、本当に敬服します。美しい手書き楽譜はそれ自体、完成された芸術です。

しかしながら、それがFinaleで作られた楽譜ほど、実際の音楽、つまり楽譜から生み出される音芸術の創造に役立っているとは考えません。手書きの楽譜制作には多大な労力を要します。もし何かを変更したくなった場合、例えば曲中に数小節のアイデアを挿入したくなったり、全体を移調したくなった場合は、Finaleを使った方が絶対的に楽です。手書きの浄書家が数日掛けて取り組む作業は、Finaleでは数分、場合によっては数秒で完了します。さらに付け加えると、電子的に生成される楽譜は手書き楽譜よりも保存や整理が楽ですし、出版の作業もずっと楽です。

長い歴史の中で高度に発達した手書き浄書の技法には深い敬意を抱きますし、私自身も初期のアイデアを手書きで記すことを好みますが、一方で楽譜よりもその結果としての音楽の方がより重要と考えますので、実際の音楽制作にあたり手書きが最良の手段であると考えるのは難しいと思います。

バークリー音楽大学が標準ツールとしてFinaleを採用

ーバークリー音楽大学で開講しているFinaleのオンライン・クラスについて教えて下さい

オンライン・コース「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」のインストラクション画面バークリー音楽大学では2002年にオンライン・スクールを開校しましたが、私はその立案を務めました。自身でも「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」というコースを開講し、それ以来1年間に4学期教え続けています。

12週からなるこのコースでは、Finaleの使い方を一通り扱います。受講者のレベルは様々で、多くは初心者ですが中にはFinale経験者もいます。授業の内容は深いですが、Finaleの使い方自体よりも音楽制作を重視しています。第1週はFinaleを使ってメロディを書くために必要なすべての知識を学びます。その後は、例えば1段あたりに配置する小節数といった細かな設定方法をたくさん、学生たちの頭に詰め込んでいきます。受講者は最初の6週間で基本的な記譜テクニックを学び、それが終わる頃にはオーケストラとクワイアから成る大規模アンサンブル譜が書けるようになります。

「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」の内容
レッスン1:メロディ・ライティング
レッスン2:調号、拍子記号、音部記号
レッスン3:リードシート
レッスン4:歌詞
レッスン5:発想記号とアーティキュレーション
レッスン6:複数五線からなる楽譜
レッスン7:ショートカット
レッスン8:ページ・レイアウト
レッスン9:反復記号
レッスン10:記譜の微調整
レッスン11:レイヤー(合唱譜、ドラム譜)
レッスン12:運指、TAB譜、その他楽器特有の記譜法

オンライン・コース「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」の宿題確認用の画面コースの後半では、Finaleのやや特殊な使用法や裏技を扱います。これには例えばテンプレートの使用、ドラム譜の作成、画像書き出しなど、Finaleの導師と呼ばれるのに必要な知識が含まれます。数年のFinale経験を持つ学生でも「Finaleではこんなこともできるんですね!」と息を飲む機能は多くありますが、大抵の場合、これらは昔から実装されていたりします。Finaleには学ぶべき機能が実に沢山あるということです。

受講者はFinaleの使用方法と共に、記譜法についても学びます。このコースは特に音楽ディレクターや学校の音楽教師に好評ですが、受講者の中にはロックバンドのプレイヤーや世界一流の交響楽団の団員もいますし、レコーディング・スタジオのオーナーもいます。受講後にプロの浄書家になる人もいます。

コンテンポラリー・ソングライターには楽譜を全く用いない人も多くいますが、楽譜は多くの面において非常に便利なコミュニケーション手段となりますので、いろんな立場の人に受講してもらいたいと思っています。

ー楽譜作成ソフトウェアはFinale以外にもSibeliusをはじめとしていくつかありますが、Finaleを選んだ理由は?

バークリー音楽大学では学内標準の楽譜作成ソフトウェアとしてFinaleを採用しています。採用を決めるにあたり、学内で検討チームを組織して両製品のどちらが優れているかの入念なテストを行いましたが、その際、チームメンバーの大多数がFinaleを好んだため、Finaleを標準ツールとして採用しました。

両製品のどちらが良いかという議論は永遠に続くと思いますが、大抵の場合は以下のような結論で収束します。即ち、Finaleは究極的にみるとよりフレキシブルで、ユーザーにより多くのコントロールの可能性を与えてくれます。他方はFinaleに比べると使い始めは少しだけ簡単で、ある機能についてはFinaleよりも直感的に扱えます。

いずれにせよ、どちらの製品も優れており、バークリー音楽大学でも楽譜制作の業界でも使用されています。多くのプロ浄書家と出版社は両方を使用しています。楽譜作成ソフトウェアにはこの二つ以外にもいくつかありますが、私の知る限りでは、プロの音楽家でそれらを使っている人はいません。

ー『Berklee Contemporary Music Notation』を執筆した動機は?

ファイスト氏の著作『Berklee Contemporary Music Notation』 バークリー音楽大学の作曲科では最近、コンテンポラリー寄りで多様な記譜表現についてのリソースが求められていました。基本的な記号論や記譜に関する最近の実践事例を完全に網羅し、さらにドラムセットやギター・コード・ダイアグラム、反復小節記号、フィルム・スコアリングでの慣例、フルスコアとパートスコアのレイアウト、合唱音楽などにも対処したものが必要とされており、『Berklee Contemporary Music Notation』はそうしたニーズに応えて執筆したものです。

当初はこれらを扱うオンライン・コースの設立を求められたため、自身が2002年から続けていたFinaleのコースを拡張することからスタートしたのですが、しばらくするとこのコースで非常に多くの情報が提示されるようになってきて、これは一冊の本にまとめた方が良いと思い始めたのです。それで、網羅的なリソースにまで拡張できた段階で、それらの成果をこの本に取りまとめたのです。

今日、音楽的なアイデアを楽譜上に表現する適切な方法は多くの場合において複数存在し、これといった絶対的な方法を提示することは難しくなっています。この本の特徴として、そうした記譜法の多様性を尊重しつつ、相対的な視点から様々な考え方を論じている点が挙げられます。

ーこれまで影響を受けた記譜法の参考書をご紹介いただけますか?

Gardner Read氏の古典的なテキスト『Music Notation』は私のキャリアを通じて座右の書ですし、バークリー出版の『Music Notation: Preparing Scores and Parts(Nicholl/Gruzinski)』と『Music Notation (McGrain)』も最近良く参照しています。他にもいくつか持っていますが、それほど多くは使っていません。

楽譜作成ソフトウェアは既存の記譜法にも影響を与える

ーonline.berklee.eduでのインタビューの中では、楽譜作成ソフトウェアが既存の記譜法に与えた影響について言及されていましたが、その事例を紹介していただけますか?

楽譜作成ソフトウェアは既存の記譜法に数多くの面で影響を与えています。例えば、今時はどの楽譜も各段の始めに小節番号が記載されていますが、これは楽譜作成ソフトウェアが初期設定でそれを記載するからです。 手書き時代の楽譜では、こうした面倒な作業は行われていませんでした。小節番号は演奏の助けになりますので、これは良い変化と言えます。

メリットという見地からは、より中立的な変化も幾つかあります。例えば、手書き楽譜では音部記号を最初の段にだけ書いて以降は省略する習慣がありますが、これは少し廃れました。まだそういう楽譜はありますし、それを好む書き手もいます。しかし、音部記号の省略は不必要なものと言えます。同じようなことは、1小節目で反復小節線の始まりを省略する古い記譜法にも言えます。Finaleの便利な「反復小節線の作成」機能を用いれば、これを敢えて省略する必然性はありませんし、むしろ書かれていた方が明確です。

今は楽譜作成ソフトウェアがより身近となったため、楽譜の読み易さに対する期待度が高まりました。一昔前は手書きの楽譜が楽譜作成ソフトウェアの楽譜よりも洒落ていると思われたこともありましたが、その考えも古いものとなりました。演奏者や学生は純粋に読み易い楽譜を求めており、楽譜作成ソフトウェアの使用はそれを提供するための最も簡単な手段なのです。

ー最後に、日本の読者に向けてメッセージをいただけますか?

日本のみなさん、こんにちは。この記事で取り上げていただき、とても光栄に思います。また、私の言葉をこのように翻訳してみなさんに伝えてくれたエムアイセブンジャパンのスタッフに感謝します。

バークリー音楽大学と日本の音楽業界は、深く重要な関係を築き上げて来ました。才能ある学生の中には日本人も多くいますし、日本人の教官もいます。また、おそらくATN社などから発売されたバークリー出版の書籍をご存知の方もいらっしゃるかと思います。いつか日本に行ってみたいと願っていますし、またもしボストンにお越しの際はぜひバークリー音楽大学に立ち寄り、私を訪ねてください!

この記事をきっかけとして、みなさんにFinaleをお試し頂ければ幸いです。Finaleは素晴らしいツールで、開発元MakeMusic社の名が示すとおり、あなたの「音楽づくり」にとって大きな助けとなるでしょう。

ーありがとうございます。なお、本記事の公開後に読者の皆様との公開Q&Aコーナーを設ける予定ですので、そちらも宜しくお願いいたします

はい、楽しみにしています。それではまたその時に!


バークリー音楽大学の先生に質問!クラブフィナーレ読者限定、ジョナサン先生との公開Q&Aコーナー

ジョナサン先生に質問

Q1. 働きながら趣味で作曲の勉強をしています。私も最初のアイデアを手書きすることが多いですが、どのくらい作りこんだら譜面ソフトに移るか、迷うことがあります。先生はだいたいどのくらいで移りますか? また、もし差し支えなければ先生の書いた手書き譜面を拝見したいです!(30代女性、会社員)

ーーー

A1. ありがとうございます。なかなか良い質問ですね。これについては四つの答えがあります。私が手書きからFinaleに切り替えるのは主に以下の時です。

  • 新しい方法で作業する準備ができた時
  • 繰り返しのネタが多くなる中、さらに大規模な構成で作業を進めたくなった時
  • スケッチが混沌状態に陥り、明日の朝に目覚めたら自分でも判読できなくなっているかも、と思った時(因みに、清書版のことを英語ではfair copyと呼びます。)
  • 共同作業者と楽譜を共有したいと思った時

…そして私はここでプライベートなスケッチを公開しなければならない訳ですね(笑)。予めお断りしておきますが、これは自分専用のスケッチですので、汚いです。でも、制作の一過程としてこうした大雑把で感覚的な作業もアリだということが分かれば安心する方もいらっしゃると思いますので、敢えてお見せしましょう。ちなみにバークリー音楽大学での同僚であるスティーヴン・ウェバー氏は、かつて私に以下のような賢者の助言を与えてくれました。

「最初のドラフトは、むちゃくちゃ汚く描いても構わない。そういう許しを自分自身に与えると良いよ!」

これは創造力を拡げてくれる、実に良い言葉だと思います。

ジョナサン先生の「汚い」最初のドラフトの事例

というわけで、ここに「汚い」最初のドラフトの事例をご紹介します。これは私が最近、同僚のジョニー・オハーガン氏と共作した曲 "Mourn" のサビ部分です。使用した五線紙はFinaleで自作したもので、作曲するときはいつもこれを使います。上半分(もし紙を上下ひっくり返せば下半分)はブランクで、ここに歌詞や曲の構造、リズムの下書き、あるいは他のアイデアを書き込むことができます。もう一方の半分は五線が書かれています。

この事例だと、ブランク部分には歌詞や同韻語のリスト、リズムの下書きが書かれています。ね、汚いでしょう? もし学生がこれを私に見せに来たら、きっと修正書き込みで真っ赤にして返すと思います。しかし自分だけで個人的に使うなら、これで全く問題ありません。(でも、これはクラブフィナーレ読者限定公開でお願いしますね!)

このスケッチに書いたサビ部分の歌詞は、最終的に以下のようになりました。

Mourn the limitations of bliss
Gather the fragments, pick up the pieces
Mourn the limitations of bliss
Hold tight the remnants, mourn all we missed

至福への束縛を嘆け
断片を集め、拾い上げよ
至福への束縛を嘆け
残された物を握りしめ、失われたものを嘆くべし

そして以下がこのサビ部分をFinaleで清書したものです。この曲の場合は、このメロディを別の歌詞の下でも繰り返し使うと決めた時、Finaleに切り替えました。

Finaleによる清書バージョン

そしてこちら、ジョニー・オハーガンの歌をミックスした "Mourn" の最新デモ・トラックをお楽しみ下さい。




ある音楽がどのように生まれ、そこにFinaleがどのように関わるかを、この事例からご理解頂けたかと思います。なお、この曲のアレンジ作業はまだ続いています。


"Mourn" NotePadファイルのダウンロード※こちらは無料版のNotePadで開き、プレイバックすることができます。

"Mourn" Finaleファイルのダウンロード※こちらは有料版のFinale、PrintMusic専用ファイルです。






Q2. Finaleを授業に導入していますが、20人ほどの学生により日々作成される楽譜データを効率的に管理する方法を模索しています。仕事で長年Finaleを使うと、同じ曲の別バージョンも含めてファイル量は膨大になるため、導入の初期段階から統一的な管理方法があると良いと思いますが、先生のオンライン・コース「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」では、ファイルの命名方法や管理についてはどのように指導されているのでしょう?(30代男性、小中高校教員)

ーーー

A2. とても良い質問ですね。私もいつも大変多くのFinaleファイルを抱えています。「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」コースでは1年間に大体150人くらいの学生を指導しますし、それに加えてバークリー出版の仕事では一冊あたり数百、時には数千のFinaleファイルを伴う多くの書籍を編集しています。私が受け取るFinaleファイルは1年間で数千になりますので、もしこれらを整理するための厳密な方法を持たなければ、私は瞬く間にファイルの海に溺れてしまうでしょう。

オンライン・コースについては、嬉しいことに学生が提出する課題はBerklee Onlineのプラットフォームに保存される仕組みとなっていますので、私自身がこれを保存する必要はなく、各学期の終了後には自分用のパソコンに保存していたファイルを削除しています。

学生には、例えば「feist_1.musx、 feist_2.musx」といったように「自分の姓_課題番号」でファイル名をつけるように指導しています。また、全ての課題にはFinaleファイルを開いた際のヘッダー左側に氏名を記入して貰っています。こうすることでその課題を誰が作ったかが容易に分かりますし、たとえ他者が作曲したものを記譜する課題であっても混乱することはありません。


一方、バークリー出版における書籍編集プロジェクトでは、作業環境でのフォルダ階層は以下となります。

 書類>バークリー出版>プロジェクト名>著者名>現在のドラフト名>図表>章節番号とタイトル

そして、それぞれのFinaleファイルは「章節番号、その章節内での図表番号、簡潔なタイトル」というルールで命名します。例えば第2章の図表3がFメジャー・スケールの場合は「2_3_FMajor.musx」、同じく第2章の図表4がGメジャー・スケールの場合は「2_4_GMajor.musx」です。

学生が作成するファイルの名称で“名前が先”である理由は、学生各々から毎週異なる課題を受け取っているため、ファイル名で並び替えを行った際にそれぞれのファイルの関係を容易に把握できるようにするためです。一方、書籍プロジェクト用のファイルの名称で“番号が先”である理由は、同じ著者が全てのファイルを作成していますので、章節番号と図表番号を確認することが最も重要となるためです。

以上、お役に立てれば幸いです!






Q3. 先生のFinaleオンライン・コースに興味がありますが、普段の授業はどのくらいのスピードで進むのでしょう?(英語はあまり自信がないので、Google翻訳を使いながら授業に参加できるくらいのゆっくりなスピードだと嬉しいのですが。。。)上記も含め、コースの全体的な雰囲気を知りたいです。よろしくお願いします。(20代女性、学生)

ーーー

A3. 私のオンライン・コース「Finaleを用いた記譜および楽譜制作」にご興味をお持ちいただき、ありがとうございます。これは全12週からなる大学レベルのコースで、ハードワークを求められますが、学生は楽しんで履修しています。まずレッスンのスピードについてですが、オンライン・レッスンでは対面授業と異なり決められた授業時間枠はなく、受講者は各自のペースで学ぶのが基本となりますので、空いている時間に辞書を引きながらゆっくり進めることが可能です。

雰囲気については、そうですね、、まず、多くの学生は、今まで慣れ親しんで来なかった種類の楽譜も扱うことになります。クラシック教育で育った学生にはドラム譜やジャズのリードシートの制作を初めて学ぶという人も多いですが、プロとして長年のキャリアを持つ学生でもドラム譜を見て混乱したりしていましたね。自分が模範として来たものとは違う種類のものをみると、そうことも起こり得ます。一方、コンテンポラリー音楽が好きでギターのTAB譜などで育った学生の場合は、伝統的スタイルの楽譜を書くことも、例えばイマジナリー・バーラインといった記譜ルールを学ぶことも、またオーケストラ譜を読むことも初めての体験となるかも知れません。

しかし、これらを体系的に学ぶことで、学生は高度な記譜技術を獲得し、より洗練された、元となる音楽の意図を直感的に伝える楽譜を制作できるようになります。このコースはあらゆるバックグラウンドを持った全てのレベルの学生に向けて、楽譜制作の奥深さを知る機会を提供するものです。

このコースには英語を母語としない学生も多くいますが、授業は様々な形で提供されますので、言葉の違いは大した問題ではありません。何かを徹底的に学ぶためには多様な方法・手段からアプローチするのが有効であるという見方は、多くの音楽教師の間で共通認識になっていると思いますが、これこそが本コースも含めた全てのBerklee Onlineコースが基本とする立場です。学生は解説文を読み、サンプル音源を聴き、ビデオを視聴し、テキスト・チャット等で他の学生と議論します。譜例や図表を読み込み、練習問題を解き、毎週に1時間設定される教師とのライヴ・ビデオ・チャットにも参加します。

学生は段階的で丁寧な指導の下で楽譜を制作するワークショップに参加し、毎週の宿題では学生自身が選んだ素材を取り上げます。教師である私はしばしばビデオ・チャットを介しつつ細かな添削指導を行い、成績評価を行います。そのスタイルは、アカデミック寄りというよりも実践的指導に近いです。学生は一心不乱に勉強する必要がありますが、それだけに学ぶことも非常に多いです。

これは伝統的な音楽教育の方法に似ています。音楽大学で学ぶ学生は、単にレパートリーをひたすら練習するという次元を超えて、スケール練習などの技術習得、自ら演奏した録音やビデオを視聴しての研究、リサイタルでの演奏、有名な録音作品の研究、視唱、音楽理論、指揮法など、様々なことを学びます。音楽の学習にあたっては概して多次元的でマルチメディア的なアプローチが求められ、この方法によって学生の思考の全てが学習過程に注がれるようになるのです。

多様な学びの方法・手段を提供するこのアプローチはまた、単に多面的な学習方法であるに留まらず、分析的かつクリエイティヴな思考を育てるにあたり有効です。それは英語を母語としない学生に対しても、また学習に対して多様な嗜好を持つ学生に対しても同じです。ある学生はビデオから、ある学生はワークショップでの指導からより多くを学ぶでしょうし、またコースで提供される要素から創造的刺激を受けて自由な学びの道を獲得した時に最も伸びるタイプの学生もいます。本校が提供する教育アプローチで、これらの全てをサポートしていきたいと思っています。

今年のコースでは、これまでにフランス、中国、日本、メキシコ、英国、スイス、スペイン、フィリピン、そして米国全土からの学生が参加しています。学生は記譜やFinaleについてのより深い理解を獲得するだけでなく、共通の関心を持つ新しい友人を世界中に作ることもできます。ご興味をお持ちの方はぜひ、このコースに参加してみて下さいね!


写真提供:Jonathan Feist, Patricia Gandolfo Mann


後記

楽譜作成ソフトウェアの導入は、音楽制作の効率化や読み易い楽譜の作成以外にも様々なメリットをもたらします。

本インタビューでファイスト氏は音楽教育の観点から、Finaleは標準的な記譜法に基づき記号等を配置する機能を備えているため、楽譜の書き方を学ぶ際にも有効であると述べていますが、ピアニスト・作編曲家・音楽教育家の松本あすか氏も過去のFinaleユーザーインタビューにて同じことを指摘しています。

「これは私の生徒さんの話なのですが、楽譜の知識があまりなくて、でも感性のみで曲を作ってしまうようなタイプの人がいるんです。その人が楽譜作成ソフトウェアを使うようになったら、楽譜の書き方のルールをどんどん学んでいきました。ですから、Finaleは楽譜のルールを学習するためのツールにもなっているんだなと思います。」

音楽を可視化し学ぶための楽譜、そしてその楽譜の書き方を教えてくれるFinale。音楽を学ぶ学生の皆様、また音楽を教える先生方にも、ぜひこの素晴らしいツールをお試しいただくようお勧めいたします。

(本記事はFinale開発元MakeMusic社の公式ブログに2010年12月および2018年1月に掲載された記事を翻訳・編集し、さらに日本のウェブサイト向けにエムアイセブンジャパンが独自に行なった追加インタビューの内容を加えたものです。)


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