ギタリスト必見!YOUNG GUITARのタブ譜はなぜ見やすく美しいのか

- 編集部に突撃インタビュー、その謎を解き明かす! -【前編】
『ヤングギター』誌とFinale

トップ・ギタリストからアマチュアのギターファンまで、HR/HM(Hard Rock/Heavy Metal)系を中心に長年多くの読者に愛される雑誌「ヤング・ギター」。出版業界で広く利用されるFinaleですが、ヤング・ギターに掲載される楽譜も例外なくFinaleで制作されています。

そのヤング・ギター編集部に、クラブフィナーレが突撃インタビュー。前編となる今回は、ギター専用の”タブ譜”ができるまでの行程や、どのようにFinaleが活用されているのか、さらにチョーキングやアーミング、グリッサンド、タッピングなどのロック・ギターならではの奏法表現や採譜(=耳コピ)のテクニックなどを、本誌の副編集長・坂東氏にお話頂きます。

さらに今回、坂東氏オリジナルの8弦ギター曲の楽譜を特別に公開!!まずはその重厚なサウンドとこだわりの楽譜をお楽しみください。

 

前編ではヤング・ギターの楽譜ができるまでの行程を、後編ではこのヘヴィメタルの楽譜について、たっぷり語って頂きます。

【目次】
ヤング・ギターの掲載楽譜ができるまで
Finaleでギター譜を作る


ヤング・ギターの掲載楽譜ができるまで

美しいギタータブ譜 さっそくですが、ヤング・ギターに掲載される楽譜はどのような流れで出来上がるのですか?

採譜ライター→楽譜制作会社→出版社(弊社)という流れで楽譜が出来上がってきます。

最初の「採譜ライター」には、手書きもしくは簡単な採譜用ソフトなど、やりやすい方法を使ってまず原稿を書いてもらいます。そのライターさんの楽譜が、次の「楽譜制作会社」でFinaleを使って美しく浄書され、ヤング・ギター用のフォーマットで弊社に届きます。

楽譜が誌面内のレイアウトに合わせて最も見やすい割り付けになるよう、楽譜制作会社とは毎回かなり細かく相談しています。

掲載する曲や、楽譜にするフレーズのピックアップは誰が行っているんですか?
YG誌に掲載するギター譜の特徴を語る副編集長の坂東氏
YG誌に掲載するギター譜の特徴を語る副編集長の坂東氏

ケースバイケースですね。編集者が「この曲のこの部分を読者に弾いてもらいたい!」と思ってセレクトする時もあれば、採譜ライターさんに候補を渡し、「この中から面白いギタープレイをピックアップして採譜をお願いします」とお願いするパターンもあります。あるいはアーティストさん自身に選んでいただくことも少なくはありません。

そのアーティストさんならではの聞きどころやファンの方々に人気のあるフレーズなど、読者のみなさんが求めているであろう楽譜を的確にお届けできるよう、毎回打ち合わせを行なっています。

1つの楽譜を仕上げるのにかかる期間は?

ヤング・ギターには毎月2曲から3曲のギター・スコアがフルで載っており、1曲につき採譜に1週間、浄書に1週間かかります。

出来上がった楽譜の「答え合わせ」は行いますか?

それは浄書する前の段階、つまり採譜ライターさんから原稿が上がってきた段階でまず行ないます。ただそもそもライターさんに仕事をお願いする時は、まずできる限り資料をそろえてお渡しするところからスタートしますし、ライターさんも経験豊富なので、上がってきた原稿が大幅に違っていることはまずありません。

資料というのは例えば、そのギタリストの得意な弾き方や使っている楽器を調べたり、過去のインタビュー記事などを見直したりといったことが主ですが、やはり本人が演奏しているライブ映像は一番参考になりますね。

これは私の持論なのですが、ステレオの2ミックス音源だけを元に採譜するとなると、どれだけ耳の良い人でも100%正確に楽譜にするのは相当難しいんです。小さくて高い音はドラムにマスキングされて消えてしまいがちですし、速弾きのギター・プレイなどは特に、細かい音符が全く違う並び方に聞こえたり、リズムが捉えにくかったり…。

「こんなの弾けなくない?」という楽譜が出来上がることもありますよね。

確かに昔はそういう楽譜が載っている本をよく見ました。人間の手の動きって出来ることが限られていますよね。憧れの超人ギタリストも人間なので、「さすがにこうは弾けないはず…」という疑いを持つところが重要です(笑) 。理に適ったポジションを何パターンも考えることが多いです。

 

Finaleでギター譜を作る

Finaleではドラッグ&ドロップだけで音符のタブ譜化やその逆ができる

ちなみにこういった分業体制なので、ヤング・ギターでは基本的に編集者がFinaleを使うことはないのですが、最近勉強の意味もあって私自身もFinaleを導入し、勉強している最中です。

場合によっては自分で採譜することもありますし、試しに趣味で作っている自分の曲の楽譜を作ったりもしていますね。そういった意味で、手書きよりもFinaleが便利です。五線をドラッグすると勝手にタブ譜になってくれる機能がありますよね。

タブ譜の運指変更は上下矢印キーで簡単に可能

個人的にはFinaleを、ポジション確認のためのツールとしてもよく使っています。

任意の箇所を選択→ドラッグ→タブ譜化で、ある程度自動的に弾きやすいポジションでタブ譜化してくれるので、あとは上下矢印キーで弦を指定し直すなど、微調整していくだけです。

Finaleのプレイバック機能は、イメージ通りの音が鳴っているかどうかの確認などに使いますか?

はい、もちろん。細かくテンポを設定し、「ここの小節はもう少し速いかな?」といった確認も行っています。

速弾きの楽譜を作る上でこだわりはありますか?
聴こえたそのままでなく、譜割などを吟味しつつ読みやすい楽譜にまとめていく

速弾きに限ることではないんですが、個人的には「このギタリストはこういうリズムで弾きたかったに違いない」という想像をしながら、極力シンプルに見えるよう音価を整理していくことに気を遣います。

とてつもなく速いフレーズを均等な長さで弾いているつもりでも、人間がやることにはブレがありますから、よく聴くといくつかの音がツッコんでいたりモタっていたり…ということはよくあります。

それを聴いたまま採譜して、連符や音価がバラバラな楽譜を作っても、ややこしすぎて役に立たないものになりますから。例えばバスドラムとスネアドラムを基準に「この位置でどの音符が鳴っているか」を割り出して、あとは数学的にはめ込んで行くような作業を行なったりもします。

あと、ギタリストは1つのモチーフを元に発展させて作曲するような手法が多いので、何か1つ鍵となるフレーズを見つけるのも大事だと思います。難しそうに聞こえるフレーズであるほどシンプルな楽譜に仕上げたい気持ちが働くので、最終的にテクニカルな曲の楽譜の方が意外に簡単そうに見えることも多いですね。

ギターならではの奏法は、どのように楽譜に表現されていますか?
エレキギター特有の奏法や8弦開放の重低音感も視覚的に表現する

チョーキングやアーミング、グリッサンドなどのエレキギター特有の奏法について、ヤング・ギターでは曲線や装飾音符を用いて視覚的な再現を試みています。Finaleの最新バージョンはその辺りの表現が充実しているので、本当にありがたいですね。

特にエレキギターの場合、チョーキングの表現は最もこだわりたいところで、海外のギター譜を見て「なんて読みにくいんだ!」と感じたことがある人は多いと思います。厳密に世界標準が決まっているわけではないので、新しい曲を採譜するたびに、その都度もっとも見やすい表現方法を考えている…と言っても過言ではないかもしれません。

(※参考:別記事「楽器別フィナーレ活用術VOL.1:ギター編」)

ちなみにこれは今回のインタビュー取材のために、私が趣味で作っている曲を楽譜化してみたものなのですが…8弦ギターの重低音を多用する曲であることを視覚的に表現するために、普通は音部記号を変えたりして読みやすくすべき部分を、あえて加線がたくさん入るように書いてみました。楽譜はこのように採譜者の主観で表現の方法を変えることも多いので、ややこしいですよね。

ギターの楽譜づくりにおいて、Finaleを使うメリットはどういうところですか?
Finaleは個別の音符の間隔を調整する「スペーシング」の自由度が非常に高い

まず、符尾が付いた日本式タブ譜を綺麗に書けるところが良いですね。他の楽譜作成ソフトウェアを使ったこともありますが、Finaleほど楽に読みやすい日本式タブ譜を書くことはできませんでした。

(※参考:別記事「TIPS 17. 日本式のギターTAB譜を作成するには」)

Finaleは覚えることが多いので、操作は正直難しいと思うんですよ。でも読みやすい綺麗な楽譜を書こうと思えば、ものすごく細かいところまで設定して、とことんマニアックに作り込める。それがFinaleの良いところなのかなと思います。

例えばリードギターとバッキングの2段の楽譜があるとします。バッキングの方は均等に音符が並んでいてほしいけど、リードギターの方の細かい音符は少し広げておいてほしい。そういった、かゆい所に手が届く設定が可能だと思います。スペーシングの自由度が非常に高いですね。

また、書き手の主観でいじれる要素がとても多い。符尾の長さの調整や連桁の途中で隙間を開ける設定など、「マニュアルでやり方を検索すれば全部できます!」というイメージです。

連桁の途中での隙間の調整は、全ての段で一斉に行うことも可能

これを突き詰めると、人に見せるために綺麗に清書するというより、アーティストの「自分の曲をこんな楽譜にしてほしい」という細かな欲求を表現できるツールでもあると思います。

「ほんの数ミリ寄っていたほうが絶対に読みやすい」といった、パッと見では分からない細かなニュアンスまで突き詰められるのが特徴です。

ところでさっきお話しした通り、今回お示ししている8弦ギターのインスト曲の楽譜は、私が趣味で制作しているオリジナル曲の楽譜です。デモ音源はDAWで制作しています。

すごいクオリティですね!この楽譜についてお話を聞かせてください。
ヤング・ギター YOUNG GUITAR

株式会社シンコーミュージック・エンタテイメント発行の月刊ギター専門誌(創刊号: 1969年5月号)

https://youngguitar.jp/

坂東 健太
ヤング・ギター誌の副編集長、坂東健太さん

株式会社シンコーミュージック・エンタテイメント ヤング・ギター編集部 副編集長

兵庫県西宮市出身。18歳の頃からギターを弾き始めてバンド活動に勤しみ、ハード・ロックやヘヴィ・メタル系のギター・プレイに没頭。2000年に株式会社シンコーミュージック・エンタテイメントへ入社し、同年から22年に渡ってギター専門誌『ヤング・ギター』の編集に従事する。

 


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