第11回:藤代敏裕さん
作曲に必要なのは、Finaleが入ったパソコン1台だけ

全日本吹奏楽コンクールの課題曲、マーチ「青空と太陽」の作曲者、藤代さんへのインタビュー。
毎年夏ごろに開催される「吹奏楽の甲子園」こと吹奏楽コンクールの課題曲、作曲当時はなんと19歳。現在も第一線で活動をされているFinale歴16年の藤代さんに、普段の制作スタイルやソフトの活用法、また楽曲に込めた想いや工夫などを伺いました。
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藤代 敏裕(ふじしろ・としひろ)プロフィール
昭和音楽大学大学院 音楽研究科修士課程・音楽芸術表現専攻 作曲分野修了。現在、昭和音楽大学 音楽学部・短期大学部 非常勤講師。作曲を喜久邦博、豊住竜志の両氏に師事。
2008年に自作曲、マーチ「青空と太陽」が全日本吹奏楽コンクール課題曲第19回朝日作曲賞に入選し、翌年の全日本吹奏楽コンクール課題曲IV番として全国の吹奏楽団に演奏された。
2015年スペインにて、世界的なオーボエ奏者トーマス・インデアミューレ氏の委嘱作品《ももたろう》を初演。 2019年 School of the Arts Singapore (SOTA) にて《ペガスス ー 夜空を翔ける物語》を南洋理工大学吹奏楽団により初演。同年、即位礼正殿の儀の日、改元奉祝記念式典・奉祝コンサート委嘱作品《葉山 祝祭の街》を初演。2016年「巡季/灯織 ー 藤代敏裕作品集・壱」リリース。2018年「うちがわ/灯織 ー 藤代敏裕作品集・弐」リリース。
ダンススクールミュージカルや市民ミュージカルの作曲なども担当している。作・編曲作品は東京ハッスルコピー、ドレミ楽譜出版社、等から出版されている。
藤代 敏裕
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ー目次ー
1. 作曲家として、指導者として活動
2. Finaleを導入して、作曲の幅が広がりました
3. この曲が、人とのつながりを作ってくれました
4. ノートパソコン1台だけで作曲をしています
5. 全部ショートカットにしたくなっちゃいました
6. コロナ禍ならではのチャレンジが楽しかった
7. Finaleを通じて自分の成長を感じられる
作曲家として、指導者として活動

作曲家としての活動がメインです。オーケストラや吹奏楽、舞台、歌モノなどをはじめ、様々なジャンルの作編曲を行っています。
また、指導者としても活動しています。昭和音楽大学の講師として、ソルフェージュの授業と、ミュージカル公演実習の授業での音楽監督・ピアニストを担当。その他、鎌倉女子大学中等部・高等部のフェアリーコンソート部にて編曲と指導、指揮を行い、2021年は全国高等学校総合文化祭(紀の国わかやま総文2021)への出演が決まりました。
Finaleを導入して、作曲の幅が広がりました
導入は高校生の頃です。音楽を専門的に学べる高校に通っていたこともあって自作曲、自編曲を仲間に演奏してもらう機会が多々ありました。最初は手書きで頑張っていたのですが、とあるきっかけで当時の担任の先生からFinaleの使い方レクチャーを受け、祖父におねだりして導入を決めました。気づけば16年も愛用させて頂いており、今でも仕事でバリバリと活用させて頂いています。
パート譜作りがとにかく楽になりました。それまでは「手書きのスコアをコピーして切り貼り」など本当に苦労していましたが、Finaleならクリック一つで出来てしまい、さらにPDFでの共有もあっという間です。移調などのツールにも、特に歌のジャンルの楽譜作りで助けられました。
また、Finaleを使うことによる「学び」も多くありました。手書きだと大変だった大編成に意欲的にチャレンジするようになったり、Finaleに搭載された楽器リストを見て「これは何?」と興味を持って調べて、作曲にチャレンジしてみたり。吹奏楽やオーケストラ、室内楽や合唱など、Finaleを活用して新しい分野を開拓していきました。
この曲が、人とのつながりを作ってくれました
自作曲、マーチ「青空と太陽」が、2009年の全日本吹奏楽コンクール 課題曲IVに選ばれました。2008年春(学部2年に上がる春)に作曲し「朝日作曲賞」に応募。2008年6月(学部2年)に入選。2009年(学部3年)の吹奏楽コンクールの課題曲として、全国の中学生から一般団体さんまで幅広い吹奏楽団さんに演奏されました。
3ヶ月ほどかけて丁寧に書いたことを覚えています。
作曲の勉強を始めて間もない頃だったので、「プレイバック(再生)してみたら、頭の中のイメージと全然違う」ということが多発しました。一度完成したフレーズを何度も書き直したり、思い切って全部捨てたり……。途中経過のFinaleファイルは今でも全て残してあります。

手書きに比べて圧倒的にパフォーマンスが良かったです。やはりパート譜の出力が一度で出来るのが便利でした。 また、この作品を通じて新しく覚えた操作がたくさんあります。例えば、提出のフォーマットに合わせて五線の幅を調整したり、作曲者名を非表示にしたり。同じ段に打ち込んだ2つのパートを別の段に分ける、といった「パートの分離」もこの時に覚えました。
プレイヤー目線で「演奏していて楽しい曲」であることを一番大切にしました。吹奏楽部員にとって、コンクールの課題曲って「青春」じゃないですか。ずっと自分の心に残るものなんです。この曲もそうなれば良いな、って。
完成後に全パートをピアノで弾いたり、ホルン奏者の弟に吹いてもらって、演奏者としてのフィードバックを貰いました。自分がトロンボーン奏者だったからなのか、いろいろな方に「トロンボーンの出番が多いね」 とコメントを頂きました(笑)
朝日作曲賞は、二次審査が実演審査なんです。吹奏楽の聖地と呼ばれたホール「普門館」で、東京佼成ウインドオーケストラさんにより最終選考の8曲が試演されました。
そこで「プロに演奏してもらった」という感動がとても大きかったんです。リハーサルで作曲者としてコメントを求められた時、自分の口から真っ先に出た言葉は「凄いです!!」でした。19歳当時のピュアな感動は、一生忘れてはいけないなと思います。
私の作品を選んでくださったいくつもの団体さんから合奏にご招待いただき、練習会場におじゃましました。規模の大きな団体さんからパートの揃わない小さな団体さんまで、どこも一生懸命に作品と向き合ってくださっていたことが印象的です。
作品を通じて様々な出会いと学びがあり、とても貴重な経験をさせて頂きました。今でもこの繋がりを大切にしています。
ノートパソコン1台だけで作曲をしています

大きく変わってはいませんが、現在はノートパソコン1台だけで、自宅、カフェ、公園など、場所を選ばずどこでも作曲しています。外ではMIDIキーボードも使わず、パソコンのキーボードだけで、高速ステップ入力ツールとショートカットを駆使してFinaleに音を打ち込んでいきます。
私のポリシーは「作品が完成するまでプレイバックしないこと」! 頭の中で鳴る音を信じて作品を組み立てます。そのため、Finaleのミキサーもあえてミュートにしています。
ピアノも五線紙も使いません。散歩をしながら頭の中で構想し、必要になれば紙に簡単なメモをする程度で、直接Finaleに入力していきます。「Finaleが入ったパソコン」さえあれば、私の作業環境は整ってしまいます。
全部ショートカットにしたくなっちゃいました
■ ショートカットで効率化

Macbookを使っていますが、メインツールにオリジナルのショートカットキーを当てはめています。これは本当にオススメです。
例えば「音符を入力→アーティキュレーションを付与」という流れの時、メインツールをキーボードで切り替えられるので、マウスに手が伸びません。なるべく雑念が入らない状態で作曲をするために、既存+独自のショートカットを活用して作業をスピードアップしています。
昔はショートカットを一切使わなかったんですよ。大編成の曲でも「メゾフォルテ、メゾフォルテ、」って上から下まで1つずつ手打ちしていたのですが、ショートカットを使いこなす友人の作業の様子を見かけて、頑張って覚えました(笑) ショートカットを使い始めてからは一気に作業が効率化されて、全部の作業をショートカットでやりたくなってしまったんです。
■ Garritanで音源作り
ミュージカルの作曲+音源づくりのお仕事で、Finaleの付属音源「Garritan」のサウンドも時々お借りしています。別売の「NotePerformer」も併用しています。1トラックずつwavで書き出して、ミックスはDAWで行います。
コロナ禍ならではのチャレンジが楽しかった
動画プロジェクトを数多く主導しました。東京「アートにエールを!」、神奈川「バーチャル開放区」などの企画に参加し、「リモート演奏」「他業種の方とのコラボ」など、新しいことにチャレンジするとても良い機会になったと思います。これらの楽曲は全てFinaleで作曲し、PDF化した楽譜をメールやLINEで演奏者にシェアしています。
試行錯誤しながらの活動は、苦しかった反面、振り返ると毎日が新鮮でとても楽しかったと感じております。友人と遊びながら作った動画を観て下さった方から、編曲などのお仕事を受託したケースもありました。
2020年に始めた「音大受験生向けオンラインレッスン」をはじめ、Web上での活動は今後も精力的に取り組んで行きたいと思います。
また、中止となったミュージカル公演の再演の案も立ち上がっています。この先どのような時代になるかわかりませんが、演奏も創作も、希望を持って取り組みたいと思います。
Finaleを通じて自分の成長を感じられる

Finale 2005からのユーザーですが、アップグレードを重ねるごとにどんどん進化し、かゆい所に手が届くようになっています。また先ほどのショートカットの話のように、自分の使いやすいようにカスタマイズできるのもFinaleの良いところ。できないことが無く、様々な用途に合っていると思います。
高校生で導入した当初は「遊び道具」だったFinaleを、今では作曲のお仕事に使用していると思うと、面白いです。アマチュア時代からプロ作曲家になった今に至るまでずっと使えているFinaleは、それだけ幅広い層に対応したソフトウェアなのだと思います。
サポートもスピーディで丁寧なので、これから導入を検討している方はぜひ怖がらずにチャレンジしてみてほしいです。いろいろな可能性を秘めたFinaleを、私自身ももっと使いこなして行きたいです。
関連記事リンク集
《Finaleの基本操作を学べるリソース》
- 譜例で操作方法を検索:Finaleオンライン・ユーザーマニュアルより。Finaleで可能なこと、それを行うための操作法が一目で分かり、初心者の方には特にお勧めです。
- クイック・レッスン・ムービー:Finaleの操作方法や便利な機能などを30〜60秒程度の短い映像でご紹介しています。
《吹奏楽アレンジのためのFinale活用術》
- Vol.1 大会に向けての準備を時短・効率化:編曲や楽曲のカット、パート譜の編集、演奏時間の管理など、吹奏楽ならではの作業におけるFinaleの活用術をご紹介。
- Vol.2 リクエストに応えるため。アレンジのサポートに:移調楽器への楽器変更、移調楽器の調号設定、実音/移調音の表示切り替えなど、吹奏楽に頻繁に登場する移調楽器の扱いに焦点を当てたFinaleの活用術をご紹介。
- Vol.3 指導や練習と楽譜のよい関係:Finaleを活動に取り込む:複数パート譜の楽譜、五線のサイズや長休符の調整、プレイバック機能の活用など、日ごろの活動にFinaleを取り込む、ちょっとしたヒントやアイディア、便利機能をご紹介。
《吹奏楽に関連したインタビュー記事》
- 吹奏楽部活動と音楽授業におけるFinaleの活用:吹奏楽の部活動が盛んな柏市立柏高等学校では、Finaleを始めとしたICTをどのように活用しているか、同校出身で現在も母校の音楽授業で教鞭を執りつつ吹奏楽部顧問を務める宮本先生と坂本先生のお二人に、音楽授業での活用可能性の話も交えつつ、お話を伺ってみました。
- 小編成の吹奏楽アレンジをFinaleで:例年の部員数わずか10名少々という規模で様々なコンクールにて実績を重ねる仙台城南高等学校・吹奏楽部と、同校に楽曲を提供する作曲家、片岡寛晶氏との仙台-東京間でのコラボレーションの事例をご紹介します。
- 本田 雅人さんインタビュー:ビッグバンドにも力を注ぐ、ジャズ・フュージョン系では日本を代表するウインド楽器プレイヤー、本田雅人氏へのインタビュー記事です。
《オーケストラ譜のための3つのテクニック》
- 大きな拍子記号を表示させる方法
- 大きな小節番号を配した専用の五線を表示させる方法(近日公開予定)
- 各パートの演奏スタート箇所を明示するガイド音符の設定方法(近日公開予定)
《オーケストラ・スコア制作に役立つTIPS記事》
- TIPS 2. 同じ発想記号を複数のパートに連続複製する方法
- TIPS 3. 入力済みの記号やアーティキュレーションを瞬時に変更する方法
- TIPS 5. 入力済みの音の高さを簡単に変更する方法
- TIPS 6. 記号類だけを他のパートにコピーする方法
- TIPS 8. プレイバック時の臨場感を簡単に調整する方法
- TIPS 10. プレイバック時に、連続する16分音符をシャッフルさせる方法
- TIPS 11. 曲の途中で楽器を変更(持ち替え楽器)する方法
- TIPS 12. 部分的にプレイバックをしてサウンドをチェックする方法
- TIPS 14. 目からウロコのショートカット集「高速ステップ入力編」(Mac版)
- TIPS 15. 組段セパレータでスコアをより見やすく
《オーケストラ・レコーディングの現場から》
- 内田旭彦さん、森彩乃さん(ロックバンド「クアイフ」) Finale未経験から2週間でオーケストラ共演用スコアを制作(前編:オーケストラ譜制作からリハーサルまで)
- 内田旭彦さん、森彩乃さん(ロックバンド「クアイフ」) Finale未経験から2週間でオーケストラ共演用スコアを制作(後編:オーケストラとの共演ライヴを終えて)
- Shota Nakama氏:作編曲家/オーケストレーター/プロデューサー/ギタリスト 楽譜作成ソフトウェアの編集機能を活かし、オーケストラ・レコーディング用の大量の楽譜を読み易く、超高速で制作
《楽器別Finale活用術》
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.1:ギター編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.2:ピアノ編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.3:管楽器編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.4:打楽器編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.5:弦楽器編
《教育機関におけるFinale活用事例》
- ジョナサン・ファイスト氏:バークリー音楽大学教官 1学期12回にわたりFinaleを用いた記譜法を学べるオンライン・コースを開講している米国ボストンの名門、バークリー音楽大学(Berklee College of Music)での事例から、楽譜作成ソフトウェアを音楽教育に導入するメリットを考える
- 総合大学におけるFinaleの導入:筑波大学 音楽教育・研究の現場でも多用されるFinale、その活躍の場は音楽大学に限りません。総合大学にて音を扱う研究分野での導入事例をご紹介
- 栗山 和樹氏:作編曲家/国立音楽大学教授 “Finaleを使えば「バージョン2」を簡単に作れることは大きなメリットですね。特に作曲面でトライ&エラーを繰り返すような実験授業では、Finaleでデータ化されている素材は必須です”
- Finaleを活用したオンライン動画教材の事例~制作ツールの新たな活用への発想方法~ 北海道教育大学岩見沢校音楽文化専攻作曲コースの准教授で作編曲家でもある阿部俊祐先生による、Finaleを活用したユニークな動画教材をご紹介