吹奏楽部活動と音楽授業におけるFinaleの活用:柏市立柏高等学校での取り組み

“吹奏楽の甲子園”とも言われる「吹奏楽コンクール全国大会」。その金賞受賞の常連校の一つに、激戦区の東関東エリアでも屈指の強豪、柏市立柏高等学校があります。
同校では、1978年の開校当初より顧問を務め、現在は著名な吹奏楽指導者としても知られる石田修一氏が、総監督としてその年度ごとのバンドの状況に応じてオリジナルの練習素材をアップデート、現役の顧問がそれをFinaleを用いて管理しています。
学校吹奏楽の一般的な状況をみると、2018(H30)年の文化庁ガイドライン策定後、部活動時間そのものの時短の中で、練習効率化が課題となっています。
そうした中で吹奏楽の部活動が盛んな同校では、Finaleを始めとしたICTをどのように活用しているか、同校出身で現在も母校の音楽授業で教鞭を執りつつ吹奏楽部顧問を務める宮本先生と坂本先生のお二人に、音楽授業での活用可能性の話も交えつつ、お話を伺ってみました。
ー目次ー
1. 吹奏楽部では、オリジナル練習素材をFinaleで制作
2. 音楽授業でも、プレイバックなどを活用
3. ICTの一層の導入で、Finaleの活用可能性は広がる
1. 吹奏楽部では、オリジナル練習素材をFinaleで制作

(宮本先生)
部員は例年200人前後ですね。今年は59人の3年生を含め、全部で197人います。
(坂本先生)
顧問は、総監督を務める石田以下8人、うち音楽教師は私たち含め5人です。
(宮本先生)
主に、編曲、紙スコアの浄書、練習素材の制作の三つです。まず編曲は、私たち顧問がFinaleを使って既存曲をアンサンブル向けなどに書き直すというものです。
紙スコアの浄書というのは、経年劣化で読みにくくなった昔のスコアをFinaleファイル化により作り直す作業です。こういった楽譜は手書きのものも含めて多く所蔵していますので、今でも見つけては行っています。
練習素材の制作については、総監督の石田が指示したものを紙媒体に起こしていくみたいな作業ですね。

(宮本先生)
石田が手書きしたり、複数のプリントに書かれたフレーズを集めたり、口頭で「何小節目から何の楽器が入って」といったものをメモして、あとで生徒たちにも確認しつつ、前任の顧問から引き継ぎ、私たち二人がFinaleにて楽譜に仕上げるという感じです。
(坂本先生)
練習素材は、聴音やスケールなど基礎的なものから、個人練習用、パート練習用、全体練習用など、さまざまなオリジナル素材を作成しています。これらは先輩の顧問が作成したFinaleファイルも、代々受け継いでアップデートしながら使っています。
(宮本先生)
練習素材については、Finaleファイルとして作成・管理していることで、時々のバンドの状態に応じてアップデートしたり、別バージョンを作り易いことですね。
また、楽譜を参考音源と共に電子ファイルとして生徒にシェアするのも、紙やCDといった物理メディアより容易です。実際に2020年のコロナ禍による休校時には、Google Classroomを介してそれを行いました。
(宮本先生)
小さな楽器は手で持ち帰ることができましたが、コントラバスやチューバ、打楽器は運搬困難で、それらのパートは全く練習できない期間が続いていました。
休校期間中は学校側が生徒全員にGoogle Classroomのアカウントを用意してくれたので、そこでFinaleから書き出したPDFの楽譜やmp3の伴奏音源を共有し、自宅で練習できる生徒はそれを活用していましたね。
打楽器についても「休校期間中で練習ができない時にも、とにかく見ておいてね」と楽譜を共有しました。Classroomは現在も動画や録音データを共有するという形で使っており、練習の効率化に貢献しています。
2. 音楽授業でも、プレイバックなどを活用

(宮本先生)
Finaleには膨大な量の教育用ワークシートが付属していますので、この中からいくつか選んでカスタマイズし、テスト問題を作ることがありますね。
あと、教科書に載っている曲をFinaleに打ち込み、生徒の音域に合わせて移調したり、ミュージック・ベルの演奏時に教科書に掲載された曲が音幅が広すぎて対応できない場合、音を変えたり移調したりして楽譜を作り直しています。
(坂本先生)
当校には音楽コースがあり、こちらの生徒は試験で管楽器のソロ演奏を行います。そこで伴奏が必要となりますが、私たちが伴奏すると評価者がいなくなってしまいますので、Finaleに伴奏譜を打ち込んでオーディオ・ファイルに変換したものを伴奏トラックとして使うといった活用もあります。
ちなみに、部活の中でもソロ発表会があり、そこでも同じようにFinaleで伴奏を作ることが多くあります。
3. ICTの一層の導入で、Finaleの活用可能性は広がる
(宮本先生)
今までは長時間にわたる練習の積み重ねでやってきましたが、現在は長時間の練習が難しくなっています。そうした中では、前述の紙スコアのFinaleファイル化や、オリジナルの練習素材をFinaleで作成・管理していることは、練習の効率化に貢献しています。

今後の大きな課題の一つとしては、移調作業の効率化があります。例えば歌の楽譜を歌い手のキーに合わせたり、あるパートを他のパートでも演奏するなどは良くあることで、移調作業は多く発生します。
市販楽譜の場合はデータがなく、移調作業は膨大で顧問だけでは対応できないので、主に生徒に行ってもらっていて、わからないところだけ顧問が手伝っているという感じです。しかし、手書きでの移調作業はかなり手間で、実のところ生徒にとっては難しく、時間が相当掛かる上に、間違いもかなり多いです。
Finaleデータ化してしまえば、移調は簡単に、早く、しかも間違いなくできます。今のところセキュリティ問題などにより生徒が自由に使えるパソコンが確保できていないのですが、もしそれがあれば、Finaleをインストールして生徒も使えるようにすることで、こういった負担はかなり減りますし、効率化も進むと思います。
(坂本先生)
実際の状況をみても、そう思います。当部ではアンサンブルも多く手掛けていて、生徒の中にも吹奏楽曲を小編成アンサンブルにアレンジする能力を持つ生徒が、特に音楽コースの中には2〜3年に1人ほど現れます。
今年も1人いましたが、その生徒は手書きだったので、Finaleを勧めたところ、みるみる上達して、合唱曲を書くまでできるようになりました。
(宮本先生)
一般に学校ではICT端末の導入は義務教育である小中学校が先行しており、高校では今のところ未導入に等しい状況です。しかし、高校でも3〜4年後には生徒1人1台が導入される動きがあり、そうなった時は様々な可能性が広がると思います。将来的に生徒が端末を持つようになれば、授業では創作の分野でFinaleをかなり使いたいですね。
(坂本先生)
今は創作の授業で生徒たちに短い作曲をさせたりする時、手書きで楽譜を書かせていますが、実際に演奏してみるまでどんな音が流れているかさっぱり分からない状態で書いているというのが現状です。しかしFinaleを使えば、入力音が聞けたりプレイバックできたりと、作曲も格段に行い易くなります。
(宮本先生)
将来、我が校にも生徒1人1台の端末が導入されたら、Finaleは使って行きたいですね。特に音楽コースの生徒には、ぜひ使わせたいと思っています。
宮本 梨沙(みやもと りさ)プロフィール

千葉県出身。小学校5年生からトランペットをはじめ、柏市立柏高等学校を卒業後、東邦音楽大学へ進学。トランペットを藤井完、加古勉、J.バンマーの各氏に師事し、「7人のトランペット奏者によるソロ曲集Vol.4」に収録。卒業後、楽器を通じて教育の場に携わり、母校である大津ヶ丘中学校に着任。東日本吹奏楽コンクールへ出場し、金賞を受賞している。現在は、もう一つの母校である、柏市立柏高等学校で音楽と吹奏楽を教えている。
大学在籍中、演奏したい曲をなるべく経費をかけずにやりたい編成で演奏するには、自分達で編曲するしかないと、大学の先輩が使用していたFinaleを使い始めた。中学校勤務中も、生徒の力量や部活の編成に合わせて編曲が必要になることもあったため、それ以降ずっとFinaleを使用している。
(写真提供 株式会社フォトライフ)
坂本 恵利(さかもと えり)プロフィール

小学校3年の頃より千葉県に在住。中学校からクラリネットをはじめ、柏市立柏高等学校を卒業後、東邦音楽大学へ進学。クラリネットを磯部周平氏に師事。卒業後は、母校である柏市立柏高等学校をはじめ柏市の小中高等学校で勤務している。また、一般の吹奏楽団CHIBA TRAIL BLAZERSに所属し、演奏活動も続けている。
Finaleを使用したきっかけは、大学在籍中にクラリネット・アンサンブルの楽譜を先輩方が編曲していたことである。先輩方から使い方を学び、大学4年次には編曲するまでに至った。学校の勤務でも、学年に応じた楽譜を準備できることや、入力した楽譜をmp3やwavファイルにしてデモ音源を作成することができるため、Finaleが使用できたことは授業や部活動で助けとなり、現在も愛用している。
《編集後記》
現在の吹奏楽部が直面する、時短にも関わらず一定量の作業をこなさねばならないという課題は、「働き方改革」下における一般企業のものと似ています。企業では無駄な残業をなくしつつも生産性を上げるため、オートメーション・ツールやタスク管理ツールなど、さまざまなICTソリューションを導入していますが、それと同じようなことが部活動の現場でも求められているのかも知れません。
Finaleは単に綺麗な楽譜をつくるだけでなく、作業効率化のツールとしても作曲家やアレンジャーの仕事を助けています。吹奏楽部での練習の効率化にもFinaleなどICTは役立つと思いますので、そうしたノウハウを開発し、広く発信していくことは重要だと思いました。
もし宜しければ、本記事に関する皆様のご意見・ご感想をお寄せ下さい。
関連記事リンク集
《Finaleの基本操作を学べるリソース》
- 譜例で操作方法を検索:Finaleオンライン・ユーザーマニュアルより。Finaleで可能なこと、それを行うための操作法が一目で分かり、初心者の方には特にお勧めです。
- クイック・レッスン・ムービー:Finaleの操作方法や便利な機能などを30〜60秒程度の短い映像でご紹介しています。
《吹奏楽アレンジのためのFinale活用術》
- Vol.1 大会に向けての準備を時短・効率化:編曲や楽曲のカット、パート譜の編集、演奏時間の管理など、吹奏楽ならではの作業におけるFinaleの活用術をご紹介。
- Vol.2 リクエストに応えるため。アレンジのサポートに:移調楽器への楽器変更、移調楽器の調号設定、実音/移調音の表示切り替えなど、吹奏楽に頻繁に登場する移調楽器の扱いに焦点を当てたFinaleの活用術をご紹介。
- Vol.3 指導や練習と楽譜のよい関係:Finaleを活動に取り込む:複数パート譜の楽譜、五線のサイズや長休符の調整、プレイバック機能の活用など、日ごろの活動にFinaleを取り込む、ちょっとしたヒントやアイディア、便利機能をご紹介。
《吹奏楽に関連したインタビュー記事》
- 小編成の吹奏楽アレンジをFinaleで:例年の部員数わずか10名少々という規模で様々なコンクールにて実績を重ねる仙台城南高等学校・吹奏楽部と、同校に楽曲を提供する作曲家、片岡寛晶氏との仙台-東京間でのコラボレーションの事例をご紹介します。
- 本田 雅人さんインタビュー:ビッグバンドにも力を注ぐ、ジャズ・フュージョン系では日本を代表するウインド楽器プレイヤー、本田雅人氏へのインタビュー記事です。
- 藤代 敏裕さんインタビュー:全日本吹奏楽コンクールの課題曲、マーチ「青空と太陽」の作曲者、藤代さんへのインタビュー記事です。
《オーケストラ譜のための3つのテクニック》
- 大きな拍子記号を表示させる方法
- 大きな小節番号を配した専用の五線を表示させる方法(近日公開予定)
- 各パートの演奏スタート箇所を明示するガイド音符の設定方法(近日公開予定)
《オーケストラ・スコア制作に役立つTIPS記事》
- TIPS 2. 同じ発想記号を複数のパートに連続複製する方法
- TIPS 3. 入力済みの記号やアーティキュレーションを瞬時に変更する方法
- TIPS 5. 入力済みの音の高さを簡単に変更する方法
- TIPS 6. 記号類だけを他のパートにコピーする方法
- TIPS 8. プレイバック時の臨場感を簡単に調整する方法
- TIPS 10. プレイバック時に、連続する16分音符をシャッフルさせる方法
- TIPS 11. 曲の途中で楽器を変更(持ち替え楽器)する方法
- TIPS 12. 部分的にプレイバックをしてサウンドをチェックする方法
- TIPS 14. 目からウロコのショートカット集「高速ステップ入力編」(Mac版)
- TIPS 15. 組段セパレータでスコアをより見やすく
《オーケストラ・レコーディングの現場から》
- 内田旭彦さん、森彩乃さん(ロックバンド「クアイフ」) Finale未経験から2週間でオーケストラ共演用スコアを制作(前編:オーケストラ譜制作からリハーサルまで)
- 内田旭彦さん、森彩乃さん(ロックバンド「クアイフ」) Finale未経験から2週間でオーケストラ共演用スコアを制作(後編:オーケストラとの共演ライヴを終えて)
- Shota Nakama氏:作編曲家/オーケストレーター/プロデューサー/ギタリスト 楽譜作成ソフトウェアの編集機能を活かし、オーケストラ・レコーディング用の大量の楽譜を読み易く、超高速で制作
《楽器別Finale活用術》
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.1:ギター編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.2:ピアノ編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.3:管楽器編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.4:打楽器編
- 楽器別フィナーレ活用術VOL.5:弦楽器編
《教育機関におけるFinale活用事例》
- ジョナサン・ファイスト氏:バークリー音楽大学教官 1学期12回にわたりFinaleを用いた記譜法を学べるオンライン・コースを開講している米国ボストンの名門、バークリー音楽大学(Berklee College of Music)での事例から、楽譜作成ソフトウェアを音楽教育に導入するメリットを考える
- 総合大学におけるFinaleの導入:筑波大学 音楽教育・研究の現場でも多用されるFinale、その活躍の場は音楽大学に限りません。総合大学にて音を扱う研究分野での導入事例をご紹介
- 栗山 和樹氏:作編曲家/国立音楽大学教授 “Finaleを使えば「バージョン2」を簡単に作れることは大きなメリットですね。特に作曲面でトライ&エラーを繰り返すような実験授業では、Finaleでデータ化されている素材は必須です”
- Finaleを活用したオンライン動画教材の事例~制作ツールの新たな活用への発想方法~ 北海道教育大学岩見沢校音楽文化専攻作曲コースの准教授で作編曲家でもある阿部俊祐先生による、Finaleを活用したユニークな動画教材をご紹介