連載「楽譜作成ソフトウェアの導入メリットを考える」

 

Finaleファミリー製品:オンラインでの共同制作、音楽教育への活用

 

さまざまなサービスのオンライン化が模索されている中、オンライン化が今後の音楽活動をいかに便利にし得るかは、音楽に携わる皆様にとって興味深いテーマと思います。

本記事では、オンラインという観点からみたFinaleファミリー製品の活用方法について、(1)楽譜の電子化の利点を活かした共同制作の仕組みづくり、(2)音楽教育への活用、の二つの事例から考えてみました。

ー目次ー

1. オンライン化の観点から見たFinaleファミリー製品の導入メリット
2. 楽譜の電子化の利点を活かした共同制作の仕組みづくり
3. 音楽教育への活用
4. 関連ファイルの無料ダウンロード
5. 皆さんのご意見・ご感想をお寄せください


 

1. オンライン化の観点から見たFinaleファミリー製品の導入メリット
クラウド・サービス

楽譜作成ソフトウェアを使用することの一般的なメリットをオンライン化という観点から考えると、「電子ファイル化した楽譜をシェアできる」「プレイバックの参考音源をシェアできる」の2点が重要と思われます。

電子ファイル化した楽譜をシェアできる

手書きの楽譜をシェアする方法は、コピーを郵送するか、FAXするのが普通でしょう。受け取った読みにくい手書きの楽譜がFAX送信による解像度低下でますます判読困難となり、閉口した経験をお持ちの方もいらっしゃるかも知れません。

Finaleで書いた楽譜は電子ファイルとしてメールで送信できるため、そういった問題は起こりません。楽譜作成ソフトウェアの標準ファイル・フォーマットであるMusicXMLで保存すれば、他の楽譜作成ソフトウェアを使っている人ともある程度の共同作業ができますし、楽譜作成ソフトウェアを使っていない人にはPDFなど画像ファイルとして楽譜をシェアできます。

(参考:FinaleでPDFやMusicXMLにてファイルを保存する方法についてはこちら)をご覧ください。

プレイバックの参考音源をシェアできる

最終的な演奏がどのようなものになるかを他人に示すために、以前は自分で演奏した参考録音をCDなどに焼いて郵送していたかも知れません。

Finaleにはプレイバック機能が搭載されていますので、きちんと楽譜に書けさえすればFinaleがそれを自動演奏してくれます。つまり、自分がそれを演奏できる技術を持っている必要がありませんし、またその録音作業に時間を費やす必要もありません。

また、Finaleファミリー製品ではプレイバックをWAVやAIFF、mp3などのオーディオ・ファイルで書き出す機能も搭載されていますので、課題曲のオーディオ・ファイルを楽譜と一緒にメールで送信すれば、受け取った人は手元で楽譜をプリントアウトし、オーディオ・ファイルをパソコンなどで再生することで、目と耳の両方で学びながら練習することが可能になります。

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以上の整理を元に、オンラインという観点からみたFinaleファミリー製品の活用方法を、二つの事例を用いて考えてみたいと思います。

 

2. 楽譜の電子化の利点を活かした共同制作の仕組みづくり
目と耳の両方で伝える 曲のイメージを目と耳の両方で伝える

もしあなた自身がバンド内で作曲やアレンジをする場合、Finaleを使えば、自分が演奏できないパートも含めた曲のイメージを、楽譜と参考音源の両方で他のメンバーに伝えることができます。

(参考:Finaleを使った各楽器での記譜法については、本記事巻末リンク集の「楽器別フィナーレ活用術」をご覧ください)

Finaleの場合は高品質なサンプル音源と演奏記号類を反映するプレイバック機能により、数秒間の操作で特別な設定なしにリアルなプレイバック音源をメールなどでシェアできる形式で書き出すことができます。

貰ったFinaleファイルを自分で編集

共同制作というと、作曲やアレンジを共同で行うというイメージが強いかも知れません。その場合、作曲・アレンジを手掛けるメンバーが一人しかいないバンドではあまり関係ない話に聞こえてしまいますが、アレンジはそれを演奏可能とするパート譜づくりまでと考えると、各楽器を担当するメンバーが果たす役割も大きくなります。

具体例を挙げましょう。もしあなたのバンドで、アレンジャーから送られてきたパート譜やリード・シートが読みにくいと思った場合、どうしますか? しょっちゅう会ってリハーサルしているバンドなら現場でアレンジャーと対面で話せば早いですが、なかなか会う機会も取れない場合、「ここはこう書いてくれ」と電話やメールで議論するのは骨の折れる作業です。

その場合、もしアレンジャーがFinaleを使っているなら、アレンジャーと同じくFinale、あるいはその姉妹製品PrintMusicを使って、自分が使う楽譜は自分で作ってしまうことも一つの解決策と思います。

たとえあなた自身が作曲・アレンジをしなくても、自分自身が一番読み易い形で楽譜を書き直す手段があれば、読みにくい楽譜を使うことで余計に費やされてしまう練習時間を削減できますし、演奏中に楽譜を読み間違えてミスする恐れも少なくなります。さらには、楽譜を自分自身で読み易いように編集する中で曲の構造が自然と頭に入り、楽譜を編集し終わった頃にはイメージ・トレーニングが出来ていて、その後の練習もスムーズになるという副次的なメリットもあります。

なお、その際は後の混乱を避けるため、小節番号やリハーサル・マークはオリジナルのアレンジと同じにすることをお勧めします。逆に、ページ・レイアウト一段当たりの小節数異名同音表記コード・シンボルの書き方(例えばCm7かCmin7か)などは、自分が読み易いようにどんどん変えてしまいましょう。

ファイル・シェアリングの方法

ファイルのシェアはメールでやり取りするよりも、クラウド上にフォルダを置き、そこに常に最新ファイルをアップロードしておくのが便利です。このためには、例えばDropBoxのように、フォルダ自体はクラウド上に設置されているが、それをあたかもデスクトップ上のフォルダと同じように扱えるサービスが便利です。

DropBoxは無料版でもGB単位の容量が提供されますので、オーディオ・ファイルを多数アップロードしない限り、楽譜のやり取りは無料版で十分でしょう。

ファイル名を変えて保存の場合、日付を入れる アレンジのバージョン管理はファイル名で

ファイルをシェアする際に注意したいのは、バージョン管理です。Finaleを使うとバージョン違いのファイルを多く保存しておけるので、以前のアイデアに戻るといったことが容易ですが、そうしているうちにどれが最新アレンジかが分からなくなってしまう恐れもあります。

これを避けるためには、例えば2019年12月24日に作成したファイルは「(作品名)_191224.musx」、それを2020年2月16日に更新したファイル名は「(作品名)_200216.musx」などというように、重要な更新を加える度にファイル末尾の日付部分を変えて保存するのが一つの方法です。全てのファイルに同じ命名方法を適用すれば、一つのフォルダに保存した場合に自動的に曲ごと・新旧順に並ぶので便利です。

プリントアウトした楽譜についても同様に、新旧が不明となり混乱してしまうことを避けるために、予め全てのページの余白にテキスト・ツールで現在の日付を挿入したファイルを作成し、これをテンプレートとして使い回すのが良いでしょう。

(参考:やり方は以下です。(1) テキストボックスを配置し、「文字>挿入>現在の日付」で、現在の日付を挿入。(2) そのテキストボックスのチェックボックスを右クリックでフレーム属性ダイアログボックスを出し、割り付け先に「すべてのページ」を選択。)

ファイル名を決める際の留意点

ファイル名は視認性の上でも、またOSやソフトウェアがファイルの所在を見失うトラブルを避けるためにも、可能な限り短くすることをお勧めいたします。

使用する文字については、パソコンのファイル名では禁則文字とされる/ ? < > \なども使わないのが無難で、特に実際の曲名にも少なからず使われる「?」などは要注意です。(これらはMacでは使えますが、そのファイルをWindowsで読み込むと別の文字に置き換えられてしまいます。)

 

3. 音楽教育への活用
オンライン授業にFinaleファミリー製品を活用

教育現場では2020年前半に起こったCOVID-19問題以降、オンライン授業が今後の大きなオプションの一つとして注目されるようになりました。

先生方は急速に需要が高まったオンライン授業の環境整備でご苦労されているとの話を頻繁に耳にしますが、これは次世代の育成にとって大きな課題ですし、特に学校に通うお子様がいらっしゃるご家庭では、この問題は人ごとではなく感じられている方も多いかと思います。

音楽講師の方々の間でも、教室で行う通常のレッスンとは別に、オンライン・レッスンへのご関心が深まっているかと思います。特に音楽理論や楽譜の書き方を教える場合は、電子メール等で課題をやりとりし、添削する方法も時として効率的です。

という訳で、ここではFinaleファミリー製品をオンライン授業やレッスンにどのように活かせるかというテーマを取り上げてみます。

実際の学校の授業での活用事例から

Finaleファミリー製品は既に音楽教育の分野でも広く活躍しています。ここでは、都内のある中学校にて実際に製品を授業に導入した事例を見学させて頂いた経験を元に、一つの応用事例を考え、無料版のFinale NotePad(以下、NotePad)を使って実際にそのためのファイルを作ってみました。(本記事末尾のリンクから無料ダウンロードできます。)

Finaleファミリー製品には、無料版のNotePadも含めてプレイバック機能がありますので、アイデアを入力する都度プレイバックして聞き、気に入らなければ直す、という繰り返しで、楽譜を読むことや楽器を演奏することが苦手な生徒でもハンデを感じることなく創作に取り組むことができます。

例えば、

  1. コード進行の伴奏が入力済みのファイルを生徒にメール
  2. 生徒は無料版NotePadを入手の上、これらを自宅PCで開き、与えられたコード進行に合ったメロディを創作、ファイル名を変えて先生に送り返す
  3. 先生が添削する。またはクラスで評価しあう

といったご活用が可能かも知れません。

以下の動画にその方法を2分間ほどで簡単にまとめてみましたので、ご覧ください。

楽器の苦手意識はプレイバック機能で解消

実際にこれに近い方法を現場で試して頂いた先生からは、楽器が苦手であってもアイデア次第で優れた作品を書け、その評価を生徒に理解させることもたやすく、また新しいツールということで生徒も楽しみながら創作に打ち込めた、といったご評価を頂いています。

また、この動画の最後にあるように、先生が生徒のメロディを分析してメモを追記し、別名で保存したファイルを生徒に送り返すといったこともできます。

電子ファイルとして楽譜を取り扱えば、指導の履歴を整理して保存しやすいというのも大きなメリットと言えます。一度つくった教材は改良を加えたりバリエーションを作ったりしながら半永久的に使うことができ、データのバックアップにさえ気をつければ、紙の教材と違って時間の経過と共に劣化したり散逸してしまうこともありませんし、教師仲間でシェアすることも簡単です。

技術的な課題と、その対応

技術的な課題としては、リズム・パターンの知識がないまま適当に入力していくと判読困難な結果になってしまうことがあるので、音符入力に慣れるまではこの動画で行っているように、予めメロディのリズムを指定し、その中で音符のピッチだけを変えてそれぞれの作品をつくるというのが良いかと思います。

なお、ここでもファイル名の管理は重要です。今回作成したファイルは「(年月日)_(シリーズ番号)_(姓名)」というルールでファイル名を定めており、例えば2020年9月7日の課題ファイルは「200907_1_BlankForm.mus」、これに対し生徒(仮に宮河賢一君とします)が提出したファイルは「200907_2_Miyakawa.K.mus」、その分析ファイルは「200907_3_Miyakawa.K_Analysis.mus」としてみました。ファイル名はこのように英数字を用いると、フォルダ内で自動的にアルファベット順に並ぶので便利です。

 

4. 関連ファイルの無料ダウンロード

無料版NotePadのインストーラーはこちらのページから無料ダウンロードできます。また、上記のファイルも以下から無料ダウンロードできます。もし興味がある方はぜひ、実際に試してみてください。

[NotePadによるメロディづくり教材例(1)ブランクフォームのダウンロード]
[NotePadによるメロディづくり教材例(2)入力例のダウンロード]
[NotePadによるメロディづくり教材例(3)分析例のダウンロード]

 

5. 皆さんのご意見・ご感想をお寄せください

本記事でご紹介した以外にも、Finaleファミリー製品のオンラインでの音楽制作や練習、音楽教育での活用にはさまざまな可能性があると思います。

もし宜しければ、皆様のご意見やアイデア、ご感想をお寄せ下さい。頂いたアイデアにつきましては次回以降の記事にてご紹介させて頂くことがございます。この場が皆様の製品活用に少しでもお役に立てれば幸いです。

【2020.10.28追記】
本記事をきっかけに、北海道教育大学岩見沢校音楽文化専攻作曲コースの准教授で作編曲家でもある阿部俊祐先生にお話を伺う機会を得ることができました。阿部先生はFinaleを活用したユニークな動画教材を制作し、同大学で音楽理論(和声)の授業で用いられています。詳細は記事「Finaleを活用したオンライン動画教材の事例~制作ツールの新たな活用への発想方法~」をご覧ください。

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5. 関連記事リンク集

 

《Finaleの基本操作を学べるリソース》

  • 譜例で操作方法を検索:Finaleオンライン・ユーザーマニュアルより。Finaleで可能なこと、それを行うための操作法が一目で分かり、初心者の方には特にお勧めです。
  • クイック・レッスン・ムービー:Finaleの操作方法や便利な機能などを30〜60秒程度の短い映像でご紹介しています。

《楽譜作成ソフトウェアの導入メリットを考える》

《教育機関におけるFinale活用事例》

  • ジョナサン・ファイスト氏:バークリー音楽大学教官 1学期12回にわたりFinaleを用いた記譜法を学べるオンライン・コースを開講している米国ボストンの名門、バークリー音楽大学(Berklee College of Music)での事例から、楽譜作成ソフトウェアを音楽教育に導入するメリットを考える
  • 総合大学におけるFinaleの導入:筑波大学 音楽教育・研究の現場でも多用されるFinale、その活躍の場は音楽大学に限りません。総合大学にて音を扱う研究分野での導入事例をご紹介
  • 栗山 和樹氏:作編曲家/国立音楽大学教授 “Finaleを使えば「バージョン2」を簡単に作れることは大きなメリットですね。特に作曲面でトライ&エラーを繰り返すような実験授業では、Finaleでデータ化されている素材は必須です”

 

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